一週間続いた話したこともないクラスメイトとの二人旅は、とうとう見回りをしていた担任の教師に捕まって幕を閉じた。
先生は大変お怒りで、私は頑張って反省しようとしたのだが、怒り狂っている先生の歯に海苔が付いていたのを発見してしまい思わずぼうっとして先生をますます怒らせた。
結果として、悪びれる様子のない鉢屋と一緒に、反省文の提出と夏休み中の学校の掃除という中々に重い罰を言い渡されたのだった。
プールの底の青色を見つめながら、春先じゃなくてよかったなぁ、と思う。小学生の頃、藻や枯葉に埋もれたプールを掃除したことがあったが、ヤゴなどがいて大変だった。
それに比べて使い終わったばかりのプールは綺麗だ。これだったら水遊びの感覚で掃除ができる。私はプール内でデッキブラシを滑らせながら、地道にプールサイドをゴシゴシと擦っている鉢屋に声をかけた。
「ねー、なんて書いた?反省文」
「なんだって?」
聞こえなかったのか、鉢屋は手を止めてこちらへわざわざよってくる。ぶっきらぼうに見えて、意外と律儀な人だった。
鉢屋はプールの淵に腰掛けて、そこでようやく私が先程言っていたことを理解したらしく、ああ、と言った。
「反省文か。あれなら、"素晴らしい授業と豪華なクラスの面子に腹一杯になっていた所に、夏の空は澄み切って綺麗だったので、つい誘われてしまいました"と書いておいた」
「絶対反省してないじゃん」
「お前はなんて書いたんだ?」
「"ごめんなさいもうしません"って100回書いた」
「ホラーか?」
初めは乱暴だなぁと思ったが、鉢屋がお前っていうことにももうすっかり慣れていた。そういえば、鉢屋は私の名前を呼ばない。まさかとは思うが、ひょっとしたら知らないのかもしれない。
だとしたら名前も知らないクラスメイトと一週間もあちこちに出かけていた事になるが、私は鉢屋が気だるげな目でいつも何を考えているのか全く検討もつかないので、ありえない話ではないなと思う。何にしても、私の名前を知っていようがいまいがどっちでもよかった。
鉢屋から答えが聞けた私は、再び小走りでデッキブラシを滑らせはじめる。
「おい、1回止まれ」
「えー?」
「止まれって。そんなやり方じゃあいつか絶対すべ、」
「わぁぁあ!!」
鉢屋が言い終わる前に、足がつるりと滑った。慌ててもう片方の足とブラシでバランスをとり、何とか持ちこたえたが、もし転んでいたら腰をひどく打ちつけていただろう。久々に心臓がヒヤリとして、私は額の汗を拭った。主に暑さのせいだと思うが、思ったより汗びっしょりだ。
それから、セーフ!とか言って戯けてやろうと鉢屋の方を見る────見て、驚いた。鉢屋はこちらに手を伸ばして、珍しくものすごく焦った顔をしていたのだ。すごくびっくりしたのだろう、目がぐるぐるしている。汗もダラダラだ。私は思わず目をぱちぱちさせて、まじまじと鉢屋を見てしまった。
「本当に、人の話を聞かないな……」
動揺したような声に、彼の鼓動まで聞こえてきそうで、私は素直にごめんと言った。なんというか、夏休みは始まったばかりだと言うのに、早速意外な一面ばかりだ。
190120
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