退屈の加速度



先週は特別棟の2階3階を終わらせた上に、半ばからは鉢屋の提案で午後に宿題まで一緒にやるようになった。家に帰ってから宿題やる気が起きない、とこぼした私のための提案であった。鉢屋は頭が良く、私がわからないところは教えてくれた。とてもわかりやすかった。
しかし、3週目の今日。鉢屋と机をくっつけて勉強していた私は、ぶすくれていた。


「いや、ぶっちゃけ、飽きた」


正直、毎日毎日同じことを繰り返す日々にいよいよ飽きて、心が疲れてしまったのだ。友達はSNSで誰々とプールに行った、海に行った、などと自慢げに報告して、キラキラとした夏休みを過ごしているというのに。私と来たら、なんとも言えない関係の鉢屋と、二人きりで毎日掃除と勉強。気がおかしくなってしまう。


「あーあ、もう、やんなっちゃうなあ」

「学校をサボって遊んでたんだ、何かしら罰則はあるだろう。嫌ならはじめからサボらなきゃいいんだ」

「それ今言う?」

「文句を言い出したから言った」


鉢屋はすました顔でそう言う。つまり、自業自得と言いたいのだ。しかし残念なことに、そんな言葉はまだまだ子供でいたい私にはなんの説得力もない。私の頭の中は、たのしい夏休みの妄想でいっぱいだった。


「お前の夏休みはこの前サボった1週間だったんだよ。行きたいとこたくさん行ったろ?」

「そうだけど、でも海行ってないし」

「行き損ねたからな」

「それに知ってる?今日お祭りなんだよ」

「祭りか。それは行きたいな」


笑いながらそう言った鉢屋に、私はここぞとばかりに地元のお祭りのプレゼンをはじめる。屋台がどれだけ出るとか、御神輿もあるとか。頬杖をついて聞いている鉢屋は、いつもよりほんの少し楽しそうだった。その顔を見ていると、祭りがより魅力的なものに思えて、私はつい惜しむような声が出る。


「明日には、花火も上がるの。私友達と、浴衣着て会う予定だったのに」


「露子ちゃんは鉢屋くんと掃除だもんねぇ、しょうがないねぇ」と言っていた友人は、なんだか楽しそうだった。隣のクラスの友達と行くらしい。私のせいで行けないよりは良いけどさ。


「祭りは好き。人混みだけど、でもあかりがぼんやり屋台に点ってて、人の浴衣のもようが明るく染まって、色とりどりできれいで」

「お前は本当に、綺麗なものが好きだな」

「みんなそうでしょ。綺麗なものが好きじゃない人も、そりゃいるだろうけど、そんなに居ないんじゃないの」


そう言うと、鉢屋は急に私の顔をじっと見つめた。少しびっくりして身を引くと、ふいっと視線を逸らした鉢屋は、面白くなさそうに、ふてくされたような顔で言った。


「俺は、あんまり好きじゃないな」

「…………」


私の好きな物を否定する鉢屋の言葉よりも、鉢屋の"俺"の言い方が、何故か少し気になった。なんとなく、普段は自分のこと別の呼び方してるんじゃないかって、そう思わせるような違和感があった。鉢屋自身が違和感を感じてるような、そんな。……最近まで僕とか言ってたりして。
まぁ鉢屋が自分のことをなんて呼んでいようが、私にはどうでもいいことなので、私は直ぐにその思考を放棄して、本題の鉢屋の綺麗なものぎらいについて考える。


「なぜ?」

「きれいなものなんて、最後にはがらくたさ。そんなものよりもっと────大事にしてほしいものがあった」

「ふうん……」


鉢屋の言葉はときどき難しいから苦手。まるで自分が馬鹿みたいに思えるから。理由を聞いてもピンと来なかった私は、鉢屋の言葉をふわっと流して、ひとつ気になっていたことを聞いてみた。


「ねえ鉢屋、どうして鉢屋は私と一緒に学校をサボったの?」

「それも今聞くか?」

「うん」


だって、鉢屋だって大人ぶって自業自得だと割り切りつつも、絶対にこの夏休みの過ごし方に飽き飽きしているはずなのだ。ほら、鉢屋のあの賑やかな友達とか、夏休みは虫取りに行きてーなー!!と騒いでたのを見た。男の子っていつまでも小学生みたいで、いいなってたまに思う。
一緒に行く約束とかしてなかったのかな。こうなることがわかっていたのなら、どうして私に付き合ったりなんかしたんだろう。


「別に。反省文に書いた通りだな」

「反省文?あー……」


鉢屋、反省文になんて書いたって言ってたっけ。この前プール掃除してた日に、たしか……そうだ。毎日充実しててお腹いっぱいだったから、というようなことを言っていた。


「お腹いっぱいだったの?」

「ああ」

「そうは見えないけど」

「そんなことない。友人も、俺にはちょうどいいくらいにいて、まるで夢の続きみたいな日々だ」


そう言う割には、いつも物足りなさそうな顔をしてるように見える。そんな失礼なこと、本人には言ったりしないけど。私にだって礼儀はあるのだ。
しかし鉢屋は、そんな私の言葉選びなんて露知らず、からかうように笑って私に言った。


「お前は、空いてたんだろう」


「ほしがりさんめ。」そういった鉢屋に、私は思わず怪訝、というような顔をしてしまいそうになった。その親しげな笑みと、私を知ったような口調には、違和感しかない。だって私達、友達ですらない、ただのクラスメイトなのに。この夏限定の仲みたいなものなのに。

190127
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