花も黙った
事情を知っている4人、そして滝夜叉丸と関わりの深い4年生の面々を除き、滝夜叉丸の変化にいち早く変化に気づいていた者たちがいた。
滝夜叉丸に絡まれやすい一年は組の面々である。まだ2人が出会ってから日は経っていないが、さんざん迷惑被っているらしい。
彼らは、食堂から逃げるように出てきた乱太郎きり丸しんベヱから事情を聞き、拳をにぎりしめて憤慨した。
「迷惑な話だよ!」
「まったくだ!こんなのが毎日続いたら困る!」
「佳川先輩に滝夜叉丸先輩を褒めるのをやめていただくよう、抗議しに行こう」
真面目な顔をしてそう提案したのは、は組の頭脳、学級委員長の庄左ヱ門だ。勇気ある発言にみんなは顔を見合わせる。
少し間をあけて、「くのたまの先輩ってちょっとこわそう……」と伊助が弱気に肩を竦めて笑うと、想像したのか全員みるみるうちに意気消沈していった。なめつぼをぎゅっと抱え直した喜三太は「大丈夫だよナメクジさん。ぼくが守るからね」と壷を撫でた。
「文句なんて言ったら、ひどい目にあわされるんじゃない……?」
「田村三木ヱ門先輩は、いいやつだって言ってたけど」
「そんなの信じられないよ。くのいち教室ってだけでも厄介なのに、先輩だよ?」
「みんなで行けばきっと大丈夫だよ。それに、僕たちは文句を言いに行くんじゃない。抗議に行くんだ。佳川先輩にわかっていただけるよう、きちんと伝えればきっと大丈夫」
このままだとみんな困るだろ?
満場一致だった。そりゃあこのままでは困る。これ以上事態が悪化する前に、早めに手を打っておかなければ。庄左ヱ門の言葉に再び勇気と憤りを取り戻したは組の皆は、互いに頷き合い、意気込んで歩きだそうとした。しかし、通りがかったくのいち教室のユキちゃん達が、そんな彼らを呼び止めた。
「あら、小夜子先輩がどうかしたの?」
「ユキちゃん、トモミちゃん、おシゲちゃん!」
「なによ、そんなに意気込んで」
勢いのあるは組の面々に少々引いたように1歩下がったあと、ユキちゃんとトモミちゃんは、あ、と何か思い出したような声を上げて、好奇心できらきら輝く瞳を乱太郎きり丸しんベヱに向けた。
「そうだ。小夜子先輩といえば……」
「とうとう滝夜叉丸先輩に見つかったって本当?」
トモミちゃんの質問に、おシゲちゃんも目を輝かせて「わたしも気になってました!」と詰め寄る。今まさにその話をしていた彼らは、肩を竦め溜め息を吐きながら言った。
「ほんとほんと。おれたち、その事でこれから佳川先輩に抗議しに行くんだ」
「滝夜叉丸先輩が佳川先輩を見つけちゃってから、僕達大変なんだから」
彼らのそんな主張に、ユキちゃん達は顔を見合わせてきょとんとする。それから、あらあらうふふ、と穏やかに笑って言った。
「いいじゃない。そっとしておけば。きっと小夜子先輩も、3年越しの想いが滝夜叉丸先輩に届いて嬉しいはずだわ」
「「ええーっ!!」」
「困るよ。僕達このままだと本当に迷惑なんだ」
庄左ヱ門の言葉を皮切りに口々に文句を言い出したは組を、ユキちゃん達は数秒前の穏やかさとは打って変わったこわい顔でギロリと睨みつける。
「ちょっとぐらい我慢なさいよ」
「そうです!小夜子先輩の乙女心を踏みにじろうなんてわたしたち許しません!」
くのたまの勢いに、一年は組はぐう、と黙り込む。そんな様子に満足したのか、三人娘は再びにこにこと花のような笑みを浮かべ、顔を見合わせて頷いた。
「「「ねーっ」」」
「はあ……」
それからユキちゃん達は、一年は組が小夜子の元に抗議に行こうとする度に睨んで邪魔をしてきたが、事態を把握し何も言わなくなるのは、翌日のことだった。
190409