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太一から指摘されたことだが、最近の俺の癖は手のひらを眺めることらしい。自然と開いた手に視線を落とした瞬間、そんなことを思い出して、確かに言われた通り、癖になっているようだと苦笑した。
あの日、なまえちゃんとぎこちなくも仲直りをした日、その区切りとして握手をした。子供染みた理由かもしれないが、そもそもの始まりが子供染みていたのだ、それなら最後まで子供っぽくてもいいかもしれない。そう考えて握った手は、予想よりもずっと小さかった。その細さに驚いて、柔らかな感触に戸惑った。小さかった頃の暖かさだけを想像していたのに、穏やかとはいえない熱にひどく混乱した。
あの頃と違う。明確に示されてから、それは徐々に現実味を帯びてきた。追いかけていた背中は俺よりも小さい。明るく弾んでいた声は落ち着いている。元気いっぱいだった笑顔は穏やかで柔らかい。時々面影を感じることもあるが、それがまた一層時が経ったことを思わせて、俺の平静を乱そうとする。
そう、落ち着かないのだ。隣を歩くだけで緊張するし、目が合うと混乱して逸らしたくなる。実際逸らして、その不自然さに後悔してすぐまたなまえちゃんを見ると、気を悪くした様子はなくて深く安堵する。名前を呼ばれるたびに鼓動が早まり、笑顔を見るだけで気分が高揚した。
これらが何を意味するかなど俺でも分かる。ただ、これほど気持ちが忙しないものだとは思わなかった。でも不快ではない、どころか、楽しいとすら思っている。これはさすがに楽天的だろうか。だが仕方ないとも思う。ずっと抱いていた感情なのだから。
最早いつから、という疑問は意味すらなくなっていた。それほど小さい頃から付き合ってきた気持ちだ。それまで拙いものだったのが、ここ最近で大きく昇華していき、留まること知らずに今も膨らみ続ける。この膨らみは、いずれしぼむのだろうか。満たされることはあるだろうか。考えると不安が顔を出して、俺の足下に付いてくる。それを振り払うのが精一杯で、考えが先に進むことはない。これは少し情けない話だな。
開いていた手を握ったが、思いのほか力が入っていなかった。それがもう一度、という雑念からのものだと気付いていた。