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あの日……鋼くんと仲直り、のようなものをしてから数日が経った。あれで良かったのか、という気まずさも最初はあったけど、それをいつまでも気にしていたら握手した意味がないだろう。そう思うと、心は次第に落ち着いてきた。
今日は初めて鈴鳴支部にお邪魔した。オペレーターの今ちゃんが和菓子好きということで、近所で売ってる美味しいお饅頭を手土産に持っていったら、みんなとても喜んでくれた。しばらく和菓子談義に華を咲かせながら、太一くんお手製の緑茶(微糖)をごちそうになる。いや甘いもの好きって言ったけどね、と太一くんに緑茶の渋味と和菓子の関係性を今ちゃんと一緒に力説した。初対面だけど今日1日で今ちゃん、いや結花ちゃんとの結束力が高まった気がする。
終始そんな感じで、本当にただお邪魔したあと、鋼くんが途中まで送ってくれると言って、今は二人で帰り道を歩いている。この前と似た状況だけど、夕焼けに照らされた道も相まって、気分はもっと幼い頃に戻ったように暖かい。
支部に居たときにも思ったけど、鋼くんは思っていたよりよく笑う。饒舌ではないけど、相槌をうつタイミングが心地好くて、どんどん会話が広がっていく。鋼くんは飽きる様子もなく、むしろ楽しそうに聞いてくれるから私の口は止まらない。気付けば鋼くんが言っていた途中まで送る、の途中にたどり着いてしまった。そろそろお別れだ。楽しい1日だったなと鋼くんを見ると、少し真剣な顔をしていた。どうしたんだろう。首を傾げると、鋼くんは一瞬目を逸らして、また目を合わせた。


「……なまえって呼んでいい?」


一瞬、それが自分の名前だと分からなかった。咄嗟に反応出来ずにいると、鋼くんは続ける。


「もうなまえちゃんって感じじゃないと思ったんだ。似合わないわけじゃないんだけど、昔とは違うから」


駄目かな。遠慮がちに聞いてくる鋼くんに、私は小刻みに首を振ることしか出来ない。


「じゃあ、これからはなまえで」


鋼くんは良かった、と安心したように笑った。夕日に照らされた笑顔が、ほんの少し赤く見える。
びっくりした。いつも友達に呼ばれる名前とは、どこか違う響きを持っていた。どうしてだろう、と考えて、すぐに答えが分かる。男の子に呼び捨てで呼ばれたことがなかったからだ。低い声で呼ばれることに慣れてなかった。そう思い至って、そういえば鋼くんは男の子だったことも思い出した。いや、もう身体は男性といってもいいほど成長している。確かに彼の言う通り、昔とは違うようだ。ただ、昔と違う、という言葉がやけに私の頭に居座った。