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「まあ、B級昇進おめでとうございます」


目の前にいる荒船くんはとりあえず、とでもいうような調子で言った。本音を言えば寂しい限りの反応だけど、お互いようやくという気持ちが真っ先にあるため言及しない。特に荒船くんにはお世話になりっぱなしだから、そう思うのも仕方ないってものだ。


「荒船くんのおかげだよ。本当にありがとうね!」

「それは否定しませんけど、みょうじ先輩は要領が悪過ぎるんすよ」

「ああ、うん……それは確かに、その通りです」


ボーダー歴も狙撃手歴も私の方が長いけど、後から来てあっさり追い抜いた荒船くんの実力には敵わない。いつまでもC級でモタついている私を見かねたのか、荒船くんは的確なアドバイスだけでなく、細かいところまで根気よく教えてくれた。彼のスパルタとも思える厳しい助言と歯に衣着せぬ物言いで、当初は本気で落ち込み涙目になりながら特訓していたのも、今では良い思い出だ。


「これからどうするんですか、隊とか」

「うーん……そこまではまだ考えられないかな。それより実戦に向けてもっと強くならなくちゃいけないと思うから、多角的に特訓しようかなって」

「……多角的に」


何か言いたげな荒船くんの視線を受け止めきれず、そっと顔を逸らす。その辺りについては私が一番身を以て知っている。要領の悪い人間が複数の物事をこなそうというのは、世間が思っているよりもずっと難易度が高いのだ。でもボーダー隊員として避けては通れない。


「そうそう、だから、ランク戦のログの見方を教えてもらえないかな?動きとか参考にしたいんだ」

「いいすけど……アンタまだ見てなかったんすか。東さんからも見るように言われてませんでした?」

「あ、はい。あの、順番にやっていこうと思っておりましたら、いつの間にか……」

「……」


ぐぐっと、荒船くんの眉間にシワが寄り、涼しげな目元がいつもより数倍鋭くなっている。もう見慣れてしまった顔だけど、やっぱり恐い。そしてそんな顔をさせてしまったことを不甲斐なく思う。ごめんなさい。
ため息がひとつ聞こえて、いつの間にか俯いていた顔を上げた。目が合うと、荒船くんは呆れたように言う。


「とりあえず教えます。代わりに飯、頼みますよ」

「もちろん!……あ、牛丼でいい?」

「んじゃ大盛りで」