06

久々に本部へ来て個人ランク戦をしたあと、携帯に連絡が入っているのに気付いた。見てみるとそれは太一からのもので、一瞬急ぎの用事かと身構えた。が、それは杞憂で、太一も本部に来ているから時間が合えば一緒に帰らないか、といった内容だった。とくに断る理由もなく、俺は了承の返事を返した。



「鋼さーん!」


待ち合わせした連絡口にいると、あまり待たずに太一が来た。そちらに顔を向けると、太一の隣に見知らぬ女性がいる。いや、どこかで会ったような気もするが、誰なのか思い出せない。


「鋼くん。久しぶりだね」


女性の言葉に、既視感は気のせいではなかったのだと確信したが、それだけでは思い出せなかった。彼女と一緒にいた太一も、オレを知っている様子に驚いている。反応出来ずにいるオレに気付いたのか、女性は苦笑して言った。


「あはは、やっぱり忘れてるよねー」

「なまえさん、鋼さんと知り合いだったんですか?」


なまえ。太一が呼んだ名前はとても馴染みのあるもので、ひどく懐かしいものでもあった。みょうじなまえなのだろうか。目の前にいる彼女は、記憶の中のなまえちゃんの面影があるものの、背格好や雰囲気がまるで違う。全く知らない人のようで、すぐには信じられないくらいだ。


「幼馴染なんだけど、私、中学に上がってすぐに引っ越しちゃってさ。それ以来だから……6年ぶりぐらい?」

「6年!でも、その割には二人とも冷静って感じっすねー。感動の再会なのに」

「私はランク戦のログで見たから知ってたんだよ。と言っても、それに気付いたのもつい最近だけどね……」

「オレは……全然知らなかった。こっちに戻ってたんだ」

「うん。もともと離れてたのは1年ちょっとくらいで、戻ってきたって言っても、前に住んでた所とはちょっと遠い場所にいるから、知らなくても無理ないかも」


あっけらかんと言う彼女に、それ以上の言葉が出てこない。この女性が仮にみょうじなまえだとして、オレはどうしたらいいのだろうか。あれだけ後悔していたというのに、いざ目の前にされると頭の中は真っ白だった。
その後、どうせなら彼女も一緒に帰ろうという太一の意見により、三人で帰路に着くこととなった。彼女は最初、邪魔しては悪いと断っていたが、太一が思い出話を聞きたいとせがむと、彼女は困ったように笑って鋼くんが良ければ、と言った。オレはその言葉に頷くことしか出来ず、終始二人の会話を眺めていただけだった。


彼女が話す思い出話は、確かにオレも体験したものだった。ただ意外なのは、オレにとっては些細な出来事でも、彼女は大袈裟なまでの感動を伝えていた。太一の大袈裟ですよというツッコミもスルーして話し続ける。その表情は明るく、オレの知っているなまえちゃんと似ているなと思って、ようやく彼女があのなまえちゃんなのだと実感できた。


「鋼くん大人っぽくなったね。雰囲気は鋼くんのままだと思ってたけど、すごく落ち着いてて、私より大人っぽいかも」


ちょっと偉そうだった?と笑う彼女に首を振って応える。なまえちゃんは、と口を開きかけて、そう呼んでいいのか迷った。もう大人の彼女をそう呼ぶのは失礼にならないか。かといって、勝手に呼び捨てにしてもいいのだろうか。みょうじさん、というのは幼馴染として距離を取り過ぎだと思う。ならどう呼んだらいい?


「私はどう?ちょっとは大人っぽくなった?」

「いやーなまえさん、多分あんま変わってないんじゃないっすかね。いくら経ってもオレより要領悪いし」

「ちょっと!人が気にしてること言わないでよ!」


仲が良いな、とぼんやり思いながら、太一の言葉を否定した。


「すごく変わったよ。全然分からなかったぐらい」


綺麗になった。付け加えようとした台詞は、喉の奥から出ることはなかった。