07

いつの頃からか、待ち合わせに使っていたカフェテリアにみょうじさんは居た。ただその姿にいつものような元気はなかった。


「えっと、みょうじさん?大丈夫?」

「来馬くん……」


俯いていた顔を上げたみょうじさんは、やっぱり元気がなかった。断りを入れてからみょうじさんの向かいに座る。


「どうかしたの?」

「うん……」


はあ。ため息をひとつ吐いたあと、彼女は話し始めた。曰く、先日幼少以来久しぶりに鋼と会い、太一と三人で帰ったらしいが、その時の鋼が冷たかったらしい。


「冷たいっていうか、温度差があるっていうか、距離があるっていうか」


うん、距離だ。距離が遠かったんだよ。そう一人で納得したと思うと、みょうじさんはもう一度ため息を吐く。
鋼からもみょうじさんのことは聞いている。そこから察するに、おそらく戸惑っていただけだろう。もしくは距離を測りかねていたかもしれない。どちらにせよ、鋼は意味もなく人と距離をとることはしない。まして今でも思い出しては泣くほどに大切に想っている幼馴染を相手に、素っ気なくするなど考えられなかった。


「もしかしたら、急に会って戸惑っていたのかもしれないよ」

「ああ、そうか。途中まで太一くんと一緒にいるつもりだっただけなんだけど……そっか、私強引だったかもしれない。ん?いや、あの場合強引なのは太一くんだよね。でもそれを断らなかったわけだし、やっぱり鋼くんには悪いことしたかも」

「お、落ち着いて、みょうじさん。そこまで悪いように考えなくてもいいかもしれないし」


どんどん暗い表情になっていくみょうじさんに、慌ててフォローする。推測の域を出ないにしても、先ほどの話の中で鋼が悪く思う要素はないように感じられた。


「ううーん、でも、気付けなかったのは事実だしなあ」


そこは反省しないと。みょうじさんはため息まじりに言った。


「でも、そうじゃないとしたら、どうして戸惑うんだろ?単にびっくりしただけ?」


首を捻るみょうじさんに、自分が持つ答えは言わなかった。そこまでお節介をしては鋼に失礼だろう。黙って見守るというのは、時に居心地が悪いものだ。


「……やっぱ嫌われてるのかなあ」


ポツリと呟いたあと、みょうじさんは続ける。


「幼馴染って言ってもずっと一緒だったわけじゃないし、なんていうか……図々しかったのかも」


はああ。今度のため息は重かった。この問題は部外者の自分が口を挟むべきではないと思うも、否定したい気持ちが膨れ上がる。


「あの、みょうじさん。余計なお世話かもしれないけど、あまり自分を卑下したらいけないよ」


ようやく口に出来た言葉は、こんなにも半端なものだった。だけど本心でもある。どうかこれ以上、自分を貶めないでほしい。彼女の笑顔や心に陰りが見えると、ひどく悲しい気持ちになった。
何かに気付いたようにハッとしたみょうじさんは、いけないいけない、と笑ってみせる。そして何事もなかったように午後の講義の話を始める彼女に、己の無力さを痛感しながら相槌をした。