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傍迷惑な悪戯だと思った、りりむが仕掛けたのだと思っていたし実際そう思って本人に詳しくは伏せつつも話を聞いたりだってした。
しかし詳細を隠しているようにもりりむ本人がそれをしたようにも思えなかった。
とうに夢は醒めたはずでこんな非現実的なことはありえていい訳がない。
洗面所の鏡で一人それをみて溜息をこぼす。
明らかに異質なそれは今も嘘のように動いて私の意思に関係なくゆらゆらと揺れている。
「…二度寝しよ」
詳しく考える気にはなれなかった。どうにも考える度に頭が痛くなる。
それくらいのありえないことが私の身体に起きてしまっている現状に最早笑えてくる。
こっそり部屋に戻って布団に入り直した。
起きた頃には何事もなくなっていつものような休日が送れることを願って。
非日常なんて滅多に起きるものじゃない。

「起きろ立花」
妹の身体を揺らす、意外とすぐに起きたのはこれが二度寝だからか。
それか空腹だったからかも知れない。
どちらにせよ珍しくきっぱりと起きた妹はすぐに不快感を露わにした。
「夢じゃないんだ」
ピンと張った尻尾がその証明だった。
ピコピコと周囲を探るその耳がまさしくそうだった。
まるで仮装をしているかのように精巧に、元々そこにあったようにその尻尾と耳は存在している。
そしてその姿は猫を思わせる。
「起きたくなーい…」
気分屋で呑気で自由な…なんとも妹らしい。
結局僕が急かしてそのままリビングまで運ぶと渋々といった様子で朝ごはんを摂り始めた。
「拾い食いはだめってあれ程言ったのに…」
「してないしそれ言うの初めてじゃん…知ったような口聞かないでよ」
いつも通りの軽口で話す妹と兄の姿に少し安心した。
「兄さんは詳しく…」
「知らないよ、そもそも聞いたことすらない」
呆れ顔でこっちを見た妹、不思議とその耳がぺたんとしている気がする。
無関係だと思っていたそれはリンクしていたりするのだろうか。
触ってみたい欲に駆られはするものの何とか留める。
ご飯がおいしいのかその尻尾は先程からずっと揺れている。
耳もずっとピコピコと動いている。
「触っていい?」
「え、やだ」
じゃあ部屋帰るからーとそのまま戻ってしまった。
いつもより自由奔放度が上がった気がするが気のせいか?
…兄さんは普通に落ち込んでいる。
フォローを入れるか迷ったが兄さんのことだしれっと復活してるだろう。
何をする気にもなれなくて妹の部屋に入った。
やはりというかやることがないのか妹は静かに眠っていた。
写真を撮って気紛れに幼馴染に送る。
その髪と緩く動く耳を撫でて僕は満足した。
すぐについた既読と慌てた様子の返信、幼馴染の姿が鮮明に思い浮かんで少し笑ってしまった。
少し眠くなった僕はそのまま空いたスペースに寝転がる。
ふわふわとした尻尾が僕の手に巻き付いてきて何度か撫でて楽しむ。
そのうち襲ってきた睡魔に僕はそのまま眠ることにした。