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立花は誰にだって人気だ、クラスでもたくさん声を掛けられるし実際友達だって多い。
…嫌でも聞こえてくる、隣にいる僕の悪口。
よく思ってない人が当然いることだって分かってる。
「あのアルス?ちゃんも調子乗ってるよね」
「立花のお気に入りだからでしょ?」
立花の双子の兄が女子に人気なように立花には時折そういった下心で近付く女子がいる。
僕はどうもそれに勘違いされやすく、よくこうして悪口を言ってるのが聞こえてくるのだ。
「…どうしたのアルス、お腹痛い?」
「ううん、大丈夫」
立花にはバレちゃいけない、正義感が強すぎるあまりにどうなるかなんて想像するのが容易だ。
きっと僕のために相手を叱ってくれるんだろう、どれだけ自分の印象が悪くなろうとも。
でもそれは立花の美徳であり欠点だ。
人とうまく付き合うには多少の摩擦を気にしちゃいけないのに。
いじめられっこだった僕にはこんなこと慣れっこのはずなのに、痛くて。
「…言ってくれるまで待ってるから」
優しく揺れた翡翠の瞳、全ては見透かされていて。

前に桜華に注意されたことがある、色々な事に首を突っ込んじゃいけないって。
私が動けばそれ相応の結果になりかねない、まあ自覚はしているけどあまり実感は沸かない。
「あああ…心配だよ…これで離れられたらどうしよ…」
「立花ってアルスちゃんのことになると心配性になるね」
「昔のよしみで一緒にいるだけなんだよ?立花なんて…って思われたら終わりだー!」
「そんなこと言う子だとは思えないけどなぁ…」
押してだめなら引いてみろとは言うけど本当にアルスが話してくれるまで待ったところで向こうが離れていけばそれまでだ。
…正直な話とても心配なのである。
これでアルスがまた虐められでもしたら今度は私が相手をぶちのめしてしまうかも知れない。
「あのね立花、」
小動物じみた小柄なアルスはとってもかわいい。
しいしい先輩と同タイプだとは思うけどこの何とも言えない甘やかしたくなる気持ちはアルスにしかないものだ。
「僕、立花の隣にいていいのかな」
「なんでそんな事言うの」
語尾に怒気が交じる、そんなつもりはないのに。
ただアルスが離れていってしまいそうで不安で、それだけなのに。
「邪魔じゃないかなって…それで、あの僕…」
怖がらせてる、私のせいで。
…こうするつもりはなかったんだけどなぁ。
「アルスだから一緒にいるの」
上手く言葉にできない、口下手な自分が憎いよ。
それでも、言葉にしなくちゃ。
「私は他の誰でもない、アルスと一緒にいたいよ」
「…うん、僕も!」
すぐに晴れやかな表情が返ってきた。
この笑顔をいつまでも守っていたいと思った。