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「右から人来るぞ」
「前に石あるから気を付けろよ」
私の右目は想像以上の活躍をしてくれる。
怪我をして少しの間眼帯をする右目の代わりに、刀也に私の目の代わりになってくれと頼んだら二つ返事で了承された。
私からしたら冗談のつもりだったのに。
荷物を持ってもらうのは割といつもの事だけど何処から誰が来るのかを全て教えてくれる。
正直それもレーダーなのかと疑ってしまうような精度だ。
仮にも私の目が治ったってこんなに人を検知出来たりはしないだろう。
剣道部だからなのか?それとも耳がいいからとか?
いや…私と刀也、聴力は同じなんだよなぁ…
私がぽやぽやしてる、とか?
…それは絶対ない、そして私はぽやぽやしてない。
「どうしたんだよ」
「あー…うん、迷惑掛けてんなと思って」
突然の声掛けも私が驚かない程度の優しい声色だ。
めちゃくちゃ気を遣ってもらってる。
ただの私のヘマ一つでここまで気を遣わせていいはずがない。
絶対後で見返りを求めてくるはずだ、少なくとも私ならそうする。
嫌だぞ、桃鉄の100年プレイで永遠にいじめられるのは。
「迷惑じゃない、それにお前が気に病むことじゃないだろ…これは僕が好きでやってること、所詮僕のエゴだ」
「…なら、いいけどさ」
本当に優しさで私を助けてくれるらしい。
こんなにいい代わりの右目は他にいない。
「うん、ここまで来たら大丈夫だから」
クラスまで送り届けようとする刀也を振り切って何とか昇降口で別れる。
すぐに教室に行く気にはなれなかった。
にしたってこんな片目だけの私じゃ何も満足に出来る訳もなく。
「はーぁ、ダメだな私」
格好つけたい、けど出来ない。
独り立ちしたい癖にまだ構っていてほしい。
こんなの二律背反だ、おかしいに決まってる。
視界の端で花が揺れた。
これは確か桜華がやっと花が咲いたって喜んでいたやつだっけ。
名前は…確か。
「その花はクロユリだよ、花言葉は恋と呪い」
「…桜華」
「見てくれたんだ…どう?綺麗に咲いてる?」
片目だけじゃ、上手く見えない。
でも綺麗に咲いているんだろう、桜華が花を丁寧に世話していたことは知っている。
見えなくても、分かることだ。
「…よく咲いてんじゃない?」
桜華は本当に花が好きなんだろうな、じゃなきゃここまで私に力説したりはしないだろうし。
「よかった…それとね、刀也くんが心配してたよ」
「それが本題じゃん…」
明らかに桜華の声色が変わった。
どうやら心配しているのは刀也だけじゃないらしい。
「もうすぐHR始まるよ、荷物は私が持つから」
桜華に手を引かれて私は教室に足を進めた。

「どうしたの刀也くん、今日はやけに嬉しそうだね」
「立花が目を怪我したんだけどその代わりを僕にしてほしいって」
立花と刀也くんは何だかんだ言っていたって一番仲がいい。
立花が朝起きれないからと一緒に学校行くのを断られたと言っていたときは酷く落ち込んでいたのに。
「右目の代わりなんて大役だね」
「大役か…確かにこんなの僕じゃないと務められない」
立花は奇想天外な所があるから…右左もろくに見ずに車道へ飛び出してしまいそうだ。正直とても危うい。
「だから今日の放課後、予定開けといてくださいね」
「…それって、私の?」
「はぁ……この場に僕とお前以外の誰がいるんだよ」
学校に来るには早すぎる時間だった。
いつもなら刀也くんに連れられて朝から学校に来た立花と話す時間。
教室には私達以外誰もいない。
「あのじゃじゃ馬の対処は僕一人じゃ難しいんだよ」
今日もまた随分と立花の扱いに手を焼いたみたいだ。
「うん、分かった…放課後、開けとくね」
廊下が騒がしくなる、時計を見ると人がチラホラと登校してくる時間で。
顔を合わせていない立花の事が心配になって探しに行こうと刀也くんとの話を終わらせた。
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