桜花爛漫、風吹けば桜は舞い上がり視界を遮る。
目を閉じて、また開けて。
目の前にいたはずの彼女は、少し遠くにいた。
桜の木の前に立って、花を見つめていた。
手を伸ばせば届くのに、僕の手は空を切って、そのまま落ちた。
また、風が吹く。さっきとは比べ物にならないほどに、
花弁が僕の前で渦をまく。
目を開けたら、そこには誰もいない。
目を開けたら、そこは見慣れた天井。
薄暗い部屋、月だけが光だった。
彼女の部屋の電気はついてなくて、寝ているようだった。
先の夢を思い出す。
「桜に攫われたのかと思った」
零れた言葉は、桜が咲く度に思うことだった。
桜花爛漫、楽しそうに桜を見て笑う彼女を見るのは好きだ。
ただ、時折見せる寂しげな表情は、今にも消えてしまいそうで、
気づけば彼女の手を取って、帰ろうと告げるのがいつもだった。
あの夢の中の僕は、身体が動かなかった。
伸ばした手は虚しく空を切っただけだった。
僕は、彼女の隣に居られるのだろうか。
春という季節は彼女のように、僕の心を乱していくようだった。