巷で噂の魔法使いと兄弟子02


ふと本から顔を上げ、壁時計へと目を向ける。


そろそろ飯を作り始めるか。

なんて思いながらソファーから腰を上げたところで、俺の心を見透かしたように炎の悪魔が笑った。


「すっかり主婦が板に付いてきたなァ、ケント!」

「…誰が主婦だ。」


一瞬反応が遅れてしまったのは、ちょうど同じことを俺も思っていたからだ。

だが図星を認めたくなくて、カルシファーの頭上に落とす調理器具を探した。


と、そこへ…


「ケント!これ!」

「ん?…おぉ。」

「ゲッ!」


僕、シチューが食べたいなぁ。

そう言って無邪気に俺を見上げるのは幼いハウル。


その手にはどこから見付けてきたのか、自身の背丈と大して変わらない寸胴鍋が抱えられていた。





「シチューが良かったなぁ…」

「また今度な。」


唇を尖らせて不満を漏らすハウルを宥めつつ、俺が作り始めたのは魚のソテー。


ハウルが用意した鍋はカルシファーを押し潰すのには最適だったが、潰しすぎてしまい、いまいち火力が上がらないのが難点だった。

それにその大きさから見て、一度シチューを作るとしばらくはシチュー三昧になることは明白。


俺は別に構わないが、子供二人に先に飽きが来るのは目に見えていた。


「あ。」

「?どうしたの?」

「いや…前にマルクルが『魚は嫌いだ』って言っていたのを思い出して…」


ジュージューと、オリーブオイルの匂いが鼻に届く。

今更どうすることも出来ず、今回は我慢してもらうしかないなと溜め息を吐いた。


その代わり、明日はマルクルの好きなものにしよう。

俺のレパートリーの中にそれがあればの話だが。


そして「母親失格」とぼそりと呟いたカルシファーに胡椒を浴びせかけていると、ハウルに裾を引かれた。


「僕は魚大好きだよ!」

「そうか、偉いなハウル。」


俺の腰にぴったりと張り付き、フライパンの中を覗き込むハウルは楽しげだ。

両手が空いてさえいれば、きっとそれがこ憎たらしい弟弟子であることも忘れ、その頭を撫でていただろう。


もういっそこのままでいいんじゃないか?と思ってしまったのは、無理もない話だった。




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そしてマルクルを呼びに行く小さな背中を見送ったところで、ふと幼い弟弟子に魚を食べさせようと四苦八苦していた昔を思い出したのだった。


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嘘つき、ロンリー。