踏鞴場の長と青年02


「お前がくにを出たのは、あの若者から逃げるためかい?」

「…何故、そう思われるのです?」

「今のお前達の様子を見ると、そうとしか思えないよ。」


そう苦笑をもらせば、からかわれたと思ったのか、ケントは少しその顔を歪めてみせた。


「エボシ様もお聞きになったでしょう?あれはタタリ神の呪いを解くためにここへ来たのであって、俺なんぞ眼中に」


ざわり。

ふと騒がしくなった外の様子に、言葉を切ったケントが反射的に息を詰める。


だがすぐ、疲れたように溜息をこぼした。


「…眼中に、なかったはずなんですが。」


ケントがここタタラ場へと訪れたのは、もう随分と前のことだ。

それが今、同じ東の国から来たという若者が再びタタラ場を賑わわせている。


「いい男だねぇ、ほんと!」

「もしかして東の国とやらの気風なのかもしんないねぇ。」


戸口のすぐそこまで聞こえてきた娘達の声。

それにまたケントが溜息を吐き、「こっちに来るみたいですね」と呟いた。

だが一向に立ち上がる様子を見せない。


「行かないのかい?」


逃げないのか、と問わなかったのはせめてもの慰みになっただろうか。

ケントは一瞬こちらを一瞥し、そして未だ開かぬ戸を睨んだ。


「…いい加減面倒なんで、ここらでけりを着けようかと。」




『何で…何であんたがここにいるんだ…!』




過去の二人に何があったかは知らぬが、あの予期せぬ再会の日、ここに来て初めて激昂して見せたケントの姿が印象的だった。

その相手が、誰の目から見ても疑いようのない立派な好青年であることも。


「いつまでも兄貴風を吹かせられてはたまったもんじゃない。それに、」


一瞬言おうかどうするか、逡巡するのが見て取れた。

そして、


「…エボシ様のお傍を、離れる訳にはいきませんし。」


小さく続けられた言葉に、私は思わず笑ってしまった。





鬼事の幕、そして

鬼が勝つとは限らない。

(アシタカには悪いがケントはもうタタラ場の者、)
(ひいては私の『もの』だ)


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52500hitより。
キリリクありがとうございました!


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嘘つき、ロンリー。