本と楽器と恋の物語
閑話
『…俺が書いたって、絶対誰にも言うなよ。』
「ってケントは言ってたけどさぁ、何で言ったらダメなの?」
保健室での一件を思い出しながら、ナオは首を傾げた。
その手にはヒラヒラと一枚の紙が握られている。
「そりゃ、あんたには分からないでしょうね。」
「あ、きぬちゃんひどい。」
ならきぬちゃんは分かるの?なんて不満そうに唇を尖らせるナオに、絹代は「まぁ、ナオよりはね」と笑いながらその紙を取り上げた。
そこに書かれていたのは、綺麗とまではいかないが、とても見やすい字で紡がれた『カントリーロード』。
「多分、恥ずかしいんじゃない?」
「えー?それこそ意味分かんないんですけど。俺なら絶対自慢する、見せびらかす!」
「何それ。胸張って言うことじゃないでしょ。」
「だってそれ、本当すげぇし!」
その点は同感だった。
郷愁の想いを大胆に、少々過激に翻訳したそれは絹代も一目で気に入った。
だから余計に、普段のケントのイメージが変わる。
「よくそんなの書けるよなぁ…ケントってば本とか、かなり読んでるし、もしかして将来小説家とかになったりして?今の内にサイン、もらっておこうかなぁ。」
「それこそケントに言ったら怒られるんじゃない?」
「やっぱり?」
冗談めかして笑うナオだが、もし絹代が釘を刺していなければそれを実行に移していたのかもしれない。
そう思うと、絹代は呆れて溜め息を吐いた。
「でも、そんなケントが夕子に頼まれれば書くって、本当分かりやすいよなぁ。」
「…ナオに分かるんだから、よっぽどよね。」
「ちょ、きぬちゃん。さっきからちょいちょい辛辣。」
ナオの苦情を聞き流しながら、改めて手元の『カントリーロード』に視線を落とす。
そしてそれを小さく声に出して読んでみれば、自然とリズムに乗り始め、
「…うん。やっぱりこれ、後輩にあげるだけじゃつまらないよ。私達も謝恩会で歌おうよ。」
「あ、いいね!それ!」
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嘘つき、ロンリー。