本と楽器と恋の物語

第五話


「…どこだよ、ここ。」










学校が終わるとすぐ、俺は杉村や他の友人らに捕まるよりも先に教室を飛び出した。


何か、無性に本が読みたい。

そう思って市立図書館へ向かっていたつもりが、考え事に気を取られてしまったのか、いつの間にかそこを通り過ぎていたようだ。


気付けば周りは見慣れない住宅街。

さすがに迷子のような危機感はないが、どっと疲れが押し寄せる。


そして溜め息と共に思い出したのは、昨夜掛かってきた一本の電話。


(…夕子、泣いてたな……)


昨日俺と別れた後、杉村は夕子に会いに行ったらしい。

用件は、



『…あの手紙の返事、くれって……』



今日学校を休む、とまで言った夕子にとって、きっとそれはテストなんかよりもずっと深刻な問題だったんだろう。

俺は何も言えず、ただ黙って聞いていることしか出来なかった。


「……はぁ………」


二度目の溜め息に足が止まる。

と、そこに突然、背後から声を掛けられた。


「月島?」


振り向けば、つい最近見知った同級生の姿。

あぁ、嫌な時に嫌な奴と会ったな…と内心舌打ちする。


だが天沢はそんな俺の心境も知らずに、乗っていた自転車から降りると何故かこちらに近寄ってきた。


「具合でも悪いのか…?」

「え?」


予想外の言葉に不意を突かれる。

そして天沢が本気で心配しているのだと、その表情から読み取ることが出来て、ますます戸惑った。


(何で、こいつ……)


中で休んでいくか?と指し示されてようやく、自分が『地球屋』という店の前で立ち止まっていることに気が付いた。


閉まっているようだが、天沢が指しているのは間違いなくこの店のことだろう。


「ここ、お前んち?」

「いや、じいちゃんがやってるんだ。」

「閉まってるみたいだけど…」

「この店、変な店だから開いてる方が少ないんだよ。」


第一印象が最悪だったせいか、何でもない普通の会話に好感度が上がっていく。

それに気が紛れて、心に余裕が生まれた。


だからだろう。

その時、ふと店の入り口近くに座った猫に気付き、それがやたら無愛想に見えて思わず笑ってしまった。


「…やっぱり少し休んでいけよ。」


返事も待たず、少し強引に俺の手を引いて歩きだした天沢に何となく初めて会った時の姿を重ねる。


だけど、今度はあまり嫌な感じはしなかった。





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嘘つき、ロンリー。