本と楽器と恋の物語

第六話


「俺、下にいるから。何かあったら言ってくれ。」










そう言って、登ったばかりの階段を下りて行った天沢を見送って、もう随分と経つ。

勧められた椅子に座って改めて見渡した店内は、天沢の言った「変な店」という言葉が何となく分かるような、そんな独特な雰囲気があった。


アンティーク、の店なんだろう。

見慣れない家具や小物はまるで異国に一人、迷い込んでしまった気分にさせるが、不思議と嫌な感じはしなかった。


中でも特に目を引いたのは、テーブルの上に置かれた一体の人形。


紳士風の、少し気取った感じのする猫の人形で、窓から射し込んだ光が当たる度にその瞳が緑色に輝いていた。


(きれいだな……)


そしてついついそれに見惚れている間に辺りがすっかり暗くなっていることに気付き、ようやく俺は腰を上げた。


「天沢?」

「ん…もう大丈夫か?」

「大丈夫、心配かけてごめん。」


ついでに、騙したようでごめん、と心の中で付け加える。

勿論、それは天沢には届かなかったけど。


「バイオリン?」


気を取り直して、何か作業をしている天沢に近寄り、その手元を覗き込む。

最初にこの部屋に入った時には「ここは埃っぽいから」と言われて素通りしたが、よく見れば同じ物が幾つか天井近くに吊るされている。


バイオリン作りの教室を開いていると、天沢は教えてくれた。


「これ、お前が作ったの?すげぇな…」

「まだ途中だけど。」

「弾ける?」

「そりゃ、まぁ…」

「へぇ、すっげぇ…」


言いながら馬鹿の一つ覚えだと自分でも思ったものの、バイオリンなんて本かテレビでしか見たことないものを同級生が作って弾くのだ。

本当に『すごい』としか言いようがなかった。


「…聴きたいか?」

「ん?」

「聴きたいなら弾いてやるよ。その代わり、お前歌えよ。」

「え。」


おかげで一瞬、反応が遅れる。

すぐに慌てて断ろうとしたが、バイオリンを構えた天沢の姿が様になっていて、言葉を飲み込んだ。


続く旋律は、聞き覚えがあるものだった。


「ちゃんとした翻訳もあるんだろ?」


一度手を止めて「ほら、」と促す天沢。


この『メロディ』に『ちゃんとした翻訳』。

何が言いたいのか、すぐに分かったけれど、ふと悪戯心が芽生える。



「あるけど、お前には絶対教えてやらない。」



そしてきょとんとこちらを見上げる天沢に、俺は思わず笑ってしまった。





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嘘つき、ロンリー。