本と楽器と恋の物語
閑話
『あるけど、お前には絶対教えない。』
「…どうしてさっき歌わなかったんだよ。」
結局あの後、いくら言っても歌おうとしなかったケント。
そうこうしている内にじいちゃんが友達を連れて帰ってきて、うやむやのまま家まで送ることになった。
そして今、ケントの足に合わせて自転車を押しながらその隣を歩いている。
「俺はちゃんと弾いたのに。」
「そっちが勝手に弾きだしたんだろ。俺は歌うなんて一言も言ってない。」
「だけど、」
「それに、あれだ。コンクリートロードを馬鹿にした仕返し。」
「え?…俺、そんなこと言ったかなぁ?」
「言ったよ!」
あれ、本当にムカついたんだからな!
なんて口では怒りながらも、ケントのその顔は相変わらず楽しげに笑っていた。
だから思わず俺も、つられて笑ってしまった。
(嘘みたいだ…)
学校で、図書館で。
いつもただその姿を見ているだけだったケントが、今自分の隣に、いる。
嘘というよりもまるで夢のような状況に気分が高揚し、それから自分が何を話したのか、正直よく覚えていない。
それほど夢中になっていた。
「あ、俺こっちだから。」
だから、ケントに言われてようやく分かれ道に気が付いた。
慌てて家まで送ると告げれば、「えぇ?いいよ、すぐそこだし」と苦笑を返されてしまう。
「別に女子でもねぇし。」
そんなケントは、そこら辺にいる女子よりもずっと―…
「今日はありがとな、天沢。楽しかった。」
そしてケントの姿が見えなくなるまで見届け、小さくガッツポーズをした。
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嘘つき、ロンリー。