本と楽器と恋の物語
第八話
「一番先に、ケントに教えたかったんだ。」
あまり人前で話したくなさそうな雰囲気を察して天沢を屋上に誘えば、ちょうど雨が上がったところだった。
いくつかの水溜まりを避けながら端までやって来ると、隣に天沢が並ぶ。
そして切り出されたのは昨夜聞いた話の、その続き。
「すっげ…イタリア、行けるようになったのか。」
「やっと親父が折れたんだよ。ただし条件付きだけど。」
「条件って?」
「じいちゃんの友達が紹介してくれたアトリエで二ヶ月、見習いをやるんだよ。」
「そっか…いや、それでもやっぱすげーよ!良かったな、夢が叶って!」
少し興奮気味にそう言えば、照れたように俺から目を逸らす天沢。
構わず俺は言葉を続けた。
「それで、いつ行くんだ?」
「パスポートが取れ次第。学校とは今日、親父と話をつけるんだ。」
実際パスポートの発行にどれだけ時間が掛かるかよく知らないが、天沢のその口振りからして、多分そう長くはないのだろう。
つまり、俺達がこうやって話すことが出来る時間も残り少ないということだ。
「…もっと早く、仲良くなっていたら良かったのにな。」
「え?」
「なんか、寂しいわ。」
本の話とか、もっと色々としたかった。
同学年で、同じく読書好き。
傍にいて感じるのは、夕子やナオ、杉村ともまた違う居心地の良さ。
(それを、天沢も同じように感じていてくれたら…なんて、)
「…実は俺、図書カードでずっと前からケントに気が付いてたんだ。」
「えっ?」
一瞬、心の中を読まれたような気がしてドキッとした。
思わず天沢の横顔に見入ってしまう。
「図書館で何度かすれ違ったの、知らないだろ?隣の席に座ったこともあるんだぞ。」
「!うそ…」
「俺、お前より先に図書カードに名前書くために随分本読んだんだからな。」
つい先程の俺のように、少し早口でそう捲し立てる天沢は相変わらず俺の方を見ていない。
でも、確かに俺のことを、見ていた。
「俺、向こうに行っても頑張るよ。だから―…」
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意味深に終わる、第一部。
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嘘つき、ロンリー。