本と楽器と恋の物語
閑話
「姉ちゃん、家出んの?」
勉強机に向かうケントに対し、ベッドの上から「日曜日に引っ越しする」と話せば、ケントはようやくその手を止めて顔を上げた。
一瞬その手元が見えそうになって、だけどすぐにノートを閉じられてしまい、思わず「あ、」と声が漏れる。
「…何だよ?」
「別に?ただ何か分からないところがあったら教えてあげようかなって思っただけじゃない。」
「余計なお世話だっつーの。」
そう吐き捨てながら隠すように引き出しの中へと仕舞われたそれが、何となく気になって仕方ない。
ただの『勉強』ではなさそうだ。
珍しくやる気になって、この弟は一体何をやっているのやら。
「それで?」
「それで?」
「だから、家出んの?って聞いてんじゃん。」
「あぁ、そうそう。日曜日にね。あんたも、その年で姉と一緒の部屋なんて嫌でしょ?お父さん達にはもう話してあるから。」
「相変わらず行動が早いなぁ。」
「あんたがのんびりしているだけよ。あ、でも一人部屋になったからって、夕子ちゃんを連れ込んで変なことしないのよ?」
まぁ、そんな甲斐性ないだろうけど。
なんて内心笑っていると、「はぁ?何だよ、それ」と呆れたようにこちらを見上げるケントに少し違和感を覚える。
あの女友達のことでからかえば、必ずと言っていいほどムキになって怒っていたというのに、意外と冷静な反応だ。
(ケントも大人になった…ってことかしら?)
それともまた別の相手が出来たのかもしれない。
そんな可愛い弟の新しい恋バナは、何とか今度の日曜までに聞き出してやるとして。
「そうだ。最後だし、一緒に寝る?」
「寝ねぇし。」
ほんの少しだけ、寂しくなった。
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嘘つき、ロンリー。