本と楽器と恋の物語

第十話


「奇跡だ!本当に逢えた!」











夜が完全に明けきる、少し前。

何となく目が覚めてしまい、何となく外の空気が吸いたくなって、何となく窓を開けた。


そして白い息を吐き出しながら、そろそろ二ヶ月が経つなぁ…なんて何となく思っていたら、眼下の歩道にいるはずのない姿が。


それは確かに天沢の言う通り『奇跡』で、まるで『物語』のようだった。


「飛行機を一日早めてさ。ケントに早く会いたかったんだ。何度も心の中で呼んだんだよ。「ケントー!」って。そしたらさ、本当にケントが顔を出すんだもん!凄いよ、俺達!」


時間がないから、と行き先も教えられないまま座らされた自転車の後部座席。

頬に当たる風はすごく冷たかったけれど、それが全然気にならないほど心臓がドキドキとうるさくて仕方なかった。


運転が少し荒っぽいのは、天沢も珍しくハイになっているからかもしれない。


「月島ケントっ!」

「っは、はいっ!」


それまで嬉しそうにクレモナでの話をしていた天沢が突然、俺の名前を呼び、思わず背筋が伸びる。

改まって急に何だ?

なんて俺が問い返すより先に、天沢は大きく息を吸い込んだ。




「俺が一人前のバイオリン職人になったら!そしたら俺と結婚してくれないかっ!」

「へっ?」




思考が、止まる。

目的地に着いたら返事をくれ!と続けた天沢は、それ以上何も言おうとはしない。


(今、何て、…)


聞き間違いだと、そう誤魔化せないほどはっきりと聞こえてしまった言葉。


何だよ、それ。


俺達、友達だろ、とか。

そもそも男同士だ、とか。


言いたいことは、色々あった。


だけど真っ直ぐに前を向いたままの天沢が、一心に自転車を漕ぐ天沢の横顔が、どんな言葉も俺に飲み込ませる。


(…目的地って、どこだよ……)


そして俺は目の前の腰にしがみつき、その背中に額を押し当てた。

天沢の鼓動の音が、聴こえた気がした。




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一冊に、まとめる。

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嘘つき、ロンリー。