外伝奇集

vs石火矢衆


シシ神騒動から早数日。

命からがら逃げ延びたはいいものの、結局戻る場所はここしかなかった。


女主人が治める、タタラ場。

いや最早その名残はほとんど残っておらず、そして我々は下っ端とはいえその元凶の一員だ。


一体今更どんな顔で戻ってきたのかと、そう責められることを覚悟していたのだが、


「まぁ、お前らにとって師匠連よりもこちらの方が馴染み深いのは当然だろうなぁ。」


苦笑混じりに我々を出迎えた御仁を一目見て、何もかもが吹き飛んでしまった。


「ジコ坊様っ!」

「よくぞ、よくぞご無事で…っ!」

「何が無事なものか。今じゃあ、あの女傑の良いように扱き使われておるよ。」


その言葉通り少し倦怠感を纏わせてはいたが、やはりジコ坊様はジコ坊様だ。

我々の前に佇む姿はどこもお変わりがない。


「さて、再会を喜ぶのは後でいくらでも出来よう。生憎今は人手が足らんのだ。そこでエボシ殿から許可を貰っておるんだが…また拙僧の下で働いてくれるか?」

「じ、じごぼうざまぁ…!」


もう二度と叶わぬとばかり思っていた再会。

それどころか、彼の人はまだ我々を必要としてくれていると言う。


そう感じ入るともう涙やら鼻水やら、とにかく顔から出るもの全て出してしまい、またジコ坊様に笑われてしまった。


「その名は捨ててな。今はただのケントだ。」


ケント、様。

一度二度その名を耳にしたことはあれど、まさかそれを口にする日が来るとは思ってもいなかった。

そう呼ぶことを許される日が来るなど、思ってもみなかった。


誰とはなしに、唾を飲み込む音が聞こえる。


様々な想いが交錯し、だが意を決して、いざその名を口にしようと開いた瞬間。



「ケント殿!」



いとも容易く横取りされた栄誉に開いた口が塞がらない。


そして当然の如く彼の人の隣を陣取る青年に、嫌でも見覚えがあった。




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(これはまだ、ほんの序章)


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嘘つき、ロンリー。