外伝奇集
結末はシシ神のみぞ知る?
「…何だ、他愛ない。」
逃げていく幾つかの背中を見送り、鼻で笑う。
「だから言っただろう」と傍らに立つ山犬の姫は少し不機嫌そうだ。
「お前達の手伝いなんて、必要なかったんだ。」
シシ神の森に何やら人の姿があると、そう地走りから報告を受けたのはほんの数日前のこと。
ただ旅人が道に迷っただけでもなさそうな…なんて勘繰った矢先に拠点らしきものが見付かり、ますます嫌な想像が脳裏を過った。
狙いは『何か』、相手は『誰か』。
結局、全ては杞憂に終わったのだが。
「まぁ、何事もなく何よりではないか。」
土地を追われた無法者か、戦に敗れて落ち延びた兵の成れの果てか。
どちらにせよ、少し脅しを掛けてやっただけで逃げるような連中だ。
その背後に黒幕がいようとも高が知れている。
「恩を売ったつもりか?」
「いや、まさか。もしや、あれは自分が蒔いた種かと思ったまで。ならば、拙僧が苅るのは当然のことだろう?」
あわよくば、向こうの情報が何か手に入らないかと下心もあったが、それはまぁいい。未だ訝しげな顔でこちらを見るサンに、肩を竦めてみせた。
「それに、だ。もしそなたに何かあれば、今度は拙僧の腕が喰い千切られてしまう。」
「…ふん。」
母君を思い出したのか、一瞬逸らされる視線。
そういうところがまだまだ小娘なのだと小さく笑っていると、不意にその胸元できらりと光るものに気が付いた。
「そなた、なかなか洒落たものを持っておるな。」
「ん。あぁ、これは……」
「『これは』?」
不自然に途切れた言葉に首を傾げる。
それは「答えたくない」というよりも「答えていいものかどうか」迷っているような、どこか気まずそうな雰囲気さえ漂っていた。
そして先を促そうとした瞬間、答えは別のところから返ってきた。
「それは私がサンに贈ったものだ。」
アカシシを駆り、逃げた男達を最後まで見届けて戻って来たアシタカ。
ちょうど話を聞いていたらしい。
サンの様子は確かに気になったものの、ついアシタカの答えの方に意識が向いた。
(この男にも若い娘に贈り物をするという常識があった、と?)
幾分道を外れるような言動を繰り返してきたと思うのだが…いや、これを機に真っ当な道を行くなら大いに結構。
「そなたも隅に置けぬ男だなぁ。」
ならば後押ししてやるのが道理というもの。
今までのことは水に流してやろうではないか。
そう思い、揶揄するように笑いながら投げ掛けてやれば、やはりばつの悪い顔をするのはサンの方だった。
「本当にいいのか、アシタカ。」
「あぁ。その玉の小刀はきっとそなたを守ってくれるだろう。」
端から見れば若い男女の良さげな雰囲気。
後は二人に任せ、邪魔者は消えるのみ。
そう踵を返しかけた瞬間、腕を掴まれ、舌打ちしてしまった。
「ケント殿は私が守る。」
見え透いた結末
(あの『ジコ坊』がこうも上手く事を運べぬとは、まこと馬鹿には敵わぬものよ)
(なんて言っても、ただの負け惜しみ?)
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嘘つき、ロンリー。