太古の神々の物語

第十話


賽は投げられた。








(なんて間の悪い…)


山犬に乗って現れた男に思わず舌打ちした。

猪共を一掃し、いざシシ神退治へと向かう矢先、これでは水を差されたようなものだ。


「ジコ坊殿…」


挙げ句、開口一番に呼ばれたのは何故か己の名。

つられるように、一斉にこちらへと向けられる視線が煩わしい。


特に「貴様ら、ぐるだったのか!?」と騒ぎ立てる木偶の坊より、何やら隣で意味深に目を細める女傑にまた舌打ちする。


「…これはこれは、アシタカ殿。久方振りですな。」


素知らぬ顔でそう応じれば、何やら複雑そうに顔を歪めるアシタカ。

だが真っ直ぐに俺を見詰める眼は変わらず、あまりの居心地の悪さに「して、我々に何かご用で?」と先を促した。


まだ何か言いたげにしながらも諦めたのか、ようやくアシタカは俺からエボシの方へと向き直る。


「…タタラ場が侍に襲われている。」


曰く、シシ神退治を止め、タタラ場に戻れ、と。

森とタタラ場、双方共に生きる道はないのか、と。


(本当に、甘っちょろい男だな…)


そして言いたいことだけ言うと、アシタカはこちらに背を向け、再び駆け出した。

最後に目が合ったような気もするが、それはこの際気付かなかったことにするとして。


「あれは一体、どちらの味方なのやら…」


どうせ聞こえぬと嘲笑混じりに言葉を漏らせば、不意にアシタカが振り返った。



「私はただ、そなたの味方でありたかった。」



あぁ、茶番だ。







「どうするのだ、ジコ坊。」


完全にその後ろ姿が見えなくなったところで、エボシが笑いながら問うてきた。

どうするも何も、答えは決まっている。


「…先を急ぎましょう。」




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匙を投げるにはまだ早い。

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嘘つき、ロンリー。