太古の神々の物語
第十二話
万事休す
「く…っ」
伸ばした手が空を切る。
首桶は随分と下まで転がり落ちて行き、そして岩にぶつかってようやく止まった。
「大事ないか…?」
「っ、余計なことを…!」
恐らく「邪魔をした」などとは微塵も思っていないアシタカの問いに舌打ちも忘れ、腰に回された両腕を乱暴に振り払った。
制止の声をも振り切り、首桶の下へと一気に駆け降りる。
幸いにも中身は無事のようだが、
「ジコ坊殿!」
アシタカや山犬の娘、唯一の生き残りだろう手下の一人が追い付いたところで退路は完全に閉ざされてしまった。
足下の岩もさほど高いものではなく、じわじわとシシ神だったものがすぐそこまで迫っている。
(朝日はまだか…!)
そう天を睨んだものの、間に合いそうもない。
ここに来て、このざまか。
思わず嘲笑を漏らした。
「ジコ坊殿、首を…」
「…今更返したところで何になる?もう手遅れだ。」
ギリッと歯ぎしりしたのは山犬の娘だろう。
情けなく我が名を呼ぶのは手下か。
その瞬間、両肩を掴まれ、勢いよく振り向かされた。
「頼む。桶を開けてくれ。」
真っ直ぐな目とかち合う。
思えばこうして、アシタカと真正面から向き合うのは初めてかもしれない。
いつも自分はこの男から目を逸らしていたような気がする。
「…どうなっても知らんぞ。」
最早折れるしかなかった。
再び首桶に向き直り、その蓋へと手を伸ばす。
シシ神の首以外何も入っていないはずが、開いた隙間から液体のようなものが流れ出していく。
完全に蓋を開けきったところで、アシタカは何の躊躇いもなく桶の中へと手を差し込んだ。
(あるいはこの男なら…)
「さぁ、ジコ坊殿。」
「……は?」
アシタカに下駄を預けたつもりでいたために、不意を突かれた。
何故、そこで俺の名を呼ぶ?
何故、皆で俺を見る?
「人の手で返したいのだ。」
「…まさか俺が?いや、待て。なら、そこの女にでも」
「私は山犬だ。」
にべもなく提案は却下された。
手下の方に目を向けるも、すでに半泣きで使えそうもない。
「…ええい、くそっ!」
こうなれば自棄だ。
ずぷっ、とその液体に手を差し込む。
そしてアシタカと共にその首を抱え上げれば、滴り落ちる液体に触れたところから赤く黒く痣が広がっていった。
「シシ神よ、首をお返しする!鎮まりたまえ!」
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九死に一生
(辺りは一瞬にして眩い光に包まれた)
(それはひどく温かく、まるで誰かに抱きしめられているような、)
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嘘つき、ロンリー。