あかイおに
番外編:その後
おにさん、こちら。
手の鳴る方へ。
「何見てんだい?」
畑で収穫した野菜を運ぶ途中、トキは最後尾にいたキヨが足を止めていることに気が付いた。
それへ声を掛けると、つられるように他の娘達も次々と足を止める。
「ケントがどうかしたのかい?」
その視線にいたのは、燃えるような赤い髪の青年。
汗でも拭おうとしていたのか、上半身裸のその姿に小さな黄色い悲鳴が上がった。
「ははぁん?もしかして、あんた…」
「ちがっ…そんなんじゃないよ!」
内一人が何かを察し、意味深な笑みを浮かべる。
キヨは慌ててそれを否定するが、残念ながら仄かに赤く染まったその頬に説得力はなかった。
「ほら、前にその…ケントを撃ってしまっただろう?あの時の怪我、どうなったかと思ってさ。」
「怪我?そういえばそんなこともあったっけ。」
「ここからじゃ、よく見えないねぇ…」
「いいじゃないか。それを口実に迫ってみなよ。」
「えぇ?」
戸惑うような、しかし満更でもなさそうなキヨを見て、密かに胸を撫で下ろす娘達。
前の夫を亡くしてもう随分と経つ。
キヨもまだ若く、ここらで次に進んでもいいのではないか。
そう思っていた矢先のことだ、後押ししない訳にはいかない。
勿論、他人の色恋沙汰ほど面白いものはないという気持ちも少なからず存在していたが。
いやもし上手くいけば、キヨ経由でケントを餌にもう一人釣れるかも?なんて魂胆もあったのかもしれない。
そんな少し邪な思惑が働いていたせいか、途端に「ああああああ!」と上がった叫び声に皆一様に肩を跳ね上がらせた。
そして娘達の視線は再びケントの方へと向く。
「アシタカ様!そんなことは俺に任せてください!」
「いや、しかし」
「しかしもかかしもないっす!手が、その御手が怪我でもしたらどうするんすか!俺は全国何千万のアシタカ様ファンを敵に回したくない!」
「ふぁん?」
アシタカが不思議そうに首を傾げる間に、その荷を取り上げるケント。
一瞬呆気に取られたアシタカだったが、すぐに持ち直したようだ。
「それより私のことはアシタカでいいと、そう言っただろう。」
「そんな言われても…ほとんど癖みたいなもんですし、すぐには無理っすよ。」
娘達が見守る中、そうとは知らずにそんなやり取りを交わしながら立ち去っていく二人。
沈黙が落ちた。
「…前途多難かもねぇ。」
それは一体、誰に向けられた言葉だったのか。
トキの声は、やけに大きくその場に響くのだった。
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赤い髪に人ならざる怪力、時折こぼれるのは不可思議な言葉。
だがここでは、それらを気にする者もない。
(おにいさん、こちら。)
(手の鳴る方へ。)
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嘘つき、ロンリー。