物語を紡ぐ物語

つまり、


それは蹄で印すのと同じこと。










最早この背に旅人を乗せることなどないと、そう思っていた。

まさか自分が、再び旅に出ることになるなんて思いもしなかった。


「…すまない。お前を巻き込んでしまって。」


そんな私の戸惑いを察したかのように、私の頬に優しく手を添えたのは新たな主。

そして恐らく彼は、私の最後の主となるだろう。


(何故あなたが謝るのか…)


そう一鳴きすれば、苦笑を返される。

まるで私の言葉が通じているかのように、いやもしかしたら本当に通じているのかもしれない。


(ケント様…)


大巫女の一人息子であり、不思議な力を持つお方。

その噂は以前からよく耳にしていたが、あまり外に出られることがなかったので、私がその姿を拝見したのは今回が初めてだった。


日に焼けたことのない白い肌。

今にも容易く折れてしまいそうな細い手足。


一見して明らかにその姿は旅に適しておらず、だからこそ人に慣れ、経験もあるというだけの年老いた私にこの大役が回って来たのだ。


(巻き込まれたと言うなれば、それはあなたも同じでしょう。)


祟り神の呪いを解く、その旅への同行。

細かな経緯を私は知らないが、ケント様に非がないことは知っている。


そして勿論、アシタカという若者にもだ。


「ケント様?」


私の知るケント様の話はほとんど、このアシタカからもたらされたものだ。

彼は私達の世話を焼きながら、よく話して聞かせてくれた。


『早く、ケント様に認められる者にならなければ…』


だから今、最もこの状況を悔やんでいるのはアシタカ自身だろう。


「あぁ、すまない。今行くよ。」


こちらを気遣わしげに見遣るアシタカに応えると、私に騎乗するケント様。

あまりのその軽さに、本当に乗ったのかと振り仰ごうとして、そっと頭を撫でられる。


「…これから私達はきっと、恐ろしい目に遭うことだろう。」


アシタカ達には聞こえぬように小さく、穏やかな声が降り注いだ。


「それは人であったり、あるいはもののけであったりするかもしれない。」


一体何を知り、何を案じているのか。

くにを出てここ数日、その顔から憂いの色が消えることはなかった。


そしてケント様はもう一度謝罪をし、小さく「頼む」と言った。


「さぁ行こう、カルマ。」





--------------
(慎重に、丁寧に、一つずつ、ゆっくりと、)

*前次#

戻る

嘘つき、ロンリー。