物語を紡ぐ物語
だが、
しかし、人間とは忘れる生き物だ。
昨夜の収穫は、人間が二人にアカシシが二頭。
だが人間の片割れは鉛を受けて死にかけているし、アカシシの方はサンが食べては駄目だと言う。
そして残るもう片割れの人間は、
「私など、食べてもきっと美味くはないよ。」
いつでも噛み千切れるように、とその首筋に鼻先をいくら寄せてみてもくすぐったそうに笑うだけ。
ただおれの鼻の上を撫でる手付きは少しだけ、サンに似ているような気がした。
「だけど…良かった……」
「………?」
「一時はどうなることかと…この分なら何とかなりそうだ…」
ぼそぼそと呟きながら、そっと吐き出されたのは安堵の息。
それに首を傾げるより先に、ふと兄弟の遠吠えが聞こえて顔を上げる。
「ん…あぁ、アシタカが目を覚ましたようだな。」
おれは兄弟に応え、人間は近くにいたアカシシを呼び寄せる。
ちらりとそちらを盗み見れば、おれにしていたようにその背を撫でながら何かを話していた。
奇妙な人間だ、と思う。
身に纏う空気も、その言動も。
初めて出会った時からそうだった。
エボシによって川へと落ちてしまった母の下へ駆けつけると、その向こう岸にいた人間達。
普通人間というものは、おれ達山犬を前にすると逃げるか身構えるかするもの。
だが、一人が咄嗟に庇おうとして見せたぐらいで、それを制したもう一人はこちらの様子を窺いながらも前に進み出た。
『シシ神の森に住まう古き神々とお見受けした。』
あの後、母は何と言っていただろうか。
『シシ神が生命を司るのだとしたら、あの人間は―…』
ふと気付けばアカシシが人間を乗せて駆け出しており、慌ててその後を追う。
向かう先はサン達の待つシシ神の森で、別に今更道案内など必要ない。
ただサンがこの人間を「見ていろ」と言ったから、おれはそれを守るだけだ。
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(獣ならば、必要のないことは覚えてすらいない)
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嘘つき、ロンリー。