物語を紡ぐ物語
番外編:きっと、
それを聴いたのは、ただの偶然だった。
昔、知人の家に赤子が産まれ、その祝いを言いに行った時のことだ。
生憎家主の姿が見えず、仕方なく祝いの品だけ置いて帰ろうとした矢先、
「おまえのなまえはね、とてもつよくて、こころやさしいせいねんとおなじなまえなんだよ。」
中から聞こえてきた声にふと足を止めた。
少し舌足らずな幼子の声、だというのにやけに大人びた物言い。
思い当たるのは一人しかいなかった。
(ケントが来ているのか…)
とある経緯から、巫女であるヒィさまの養子となった少年。
きっと自分より幼い存在が珍しく、赤子の顔を見に訪れてそのまま家主に留守を任されでもしたのだろう。
続けて子守唄のつもりなのか、何やら無邪気に歌うような声を耳にし、思わず笑みがこぼれてしまった。
年の割にしっかりとした印象だったが、ちゃんと子供らしい一面もあったようだ。
折角だ、ここは一言声を掛けていこうかと足を一歩踏み出した。
(しかし、この歌…)
詞の内容は未だよく聞き取れないが、聴いたことのない旋律だ。
ケントには不思議なところが多々あった。
その言動は勿論、他の誰に教わった訳でもないというのに様々のことを知っていた。
時には、養母であるヒィさまでさえ知らないことを。
(それに同じ名前の青年?そんな話、聞いたことは……)
今回もその類いだろうか。
なんて思いを馳せながら進むにつれ、ケントの歌声も次第にはっきりと聴こえるようになり、そしてその内容を完全に理解した瞬間再び足を止めた。
子守唄にはそぐわない、いや幼い子どもが口ずさむにはあまりにも不釣り合いな。
それはひどく寂しく、悲しい歌だった。
「ケント…?」
少し震えてしまった呼び掛けにケントが振り向いた。
あどけない表情でこちらを見上げ、傍らにはすやすやと眠る赤子の姿。
その歌は一体、どこで?
今歌っていたのは、どういう意図で?
聞きたいことは沢山あった。
だがそれらを口にする前に、ケントはばつが悪そうにそっと顔を逸らしてしまった。
やがて月日は流れ、赤子もあの時のケントと同じ年頃に育った頃。
うっすらと記憶の片隅に残っているのだろう、それをケントにねだるアシタカの姿を何度か目にしたことがある。
だが、それにケントが応えることは一度もなかった。
そして、さらに数年後。
「西の国で何か不吉なことが起きているのだよ。」
立派な青年へと成長したアシタカが、いつかケントが言った『苦難の旅』に発つこととなった運命の日。
弓矢と剣を携えるその姿を見つめ、ケントが小さく何かを口ずさむのを聴いてしまった。
きっと、それは必然だった。
結局、その歌の意味を問うことは出来なかった。
いや、それを知ることが何だか少し恐ろしかったのです。
(とある村人の証言)
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122500hitより。
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嘘つき、ロンリー。