これまでの話
四
ケントと言えば『豪放磊落』、そしてとても自由な男だ。
だからこそ人を惹き寄せるのだろう。
ケントが歩けば自然とそこに視線が集まり、囁き合う声が聞こえてくる。
『私は…あの人、嫌いです。』
そう顔を歪めて言い放ったのは最近親しくしている村の乙女だったが、かの者でさえも気付けばその姿を目で追ってしまうようだ。
おかげで気紛れな幼馴染みの行方を問えば、必ずと言っていいほど正確な答えを以て返される。
そして、今日もまたカヤの言葉は正しかった。
村より少し離れた丘近く、そこにケントはいた。
一人の乙女と共に。
「―…さて、俺達もそろそろ村に戻るとしようか。」
用件を伝え終えると一つ大きく背伸びして、そう私を促したケントはこちらの返事も待たずに歩き出した。
見慣れた背中、だがそれがどこか遠く感じるようになり始めたのはいつの頃からだったか。
そっと溜め息を吐き出して、続いて私も丘を下る。
(…先程の、あの娘とは一体、何を話していたのだろう…)
思い出すのは駆けていく乙女の後ろ姿と、苦笑混じりにそれを見送ったケント。
決して追い掛けようとする素振りも見せず、ただ、
『へらへらと笑って、誰にでも愛想を振りまいて、』
『でも多分あの人、誰にも興味がないんです。』
『ただ…時々、あにさまを見つめる目が―…』
「どうした、アシタカ?早く来いよ。」
「っ、あぁ…」
不思議そうにこちらを振り仰ぐケントに、ようやく己の足が止まっていたことに気が付いた。
我に返って歩を進めれば、再びケントは私に背を向ける。
何ものにも縛られないケント。
だからこそ私は、いつもその後ろ姿を追い掛けることしか出来ないでいた。
(…だが、カヤのあの言葉が真なら…?)
『だから、嫌いなんです。』
その時、ケントは一体どんな目をしていたのだろうか。
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(まるで、四肢全てを見えない何かに絡め取られたような、)
(でもそれが、快いような、)
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嘘つき、ロンリー。