これまでの話
六
不意に名を呼ばれた気がして、足を止めた。
振り向けば少し離れた場所で大人達が数人、顔を突き合わせて何やら話し込んでいる。
どうやら呼ばれたのではなく、その話題の中で自分の名を挙げられただけのようだ。
「いやいや、流石にこれは聞く耳を持つまいて。」
「あぁ、むしろ逆効果になるやもしれんぞ。」
皆一様に渋い表情をしているが、一体何の相談をしているのか。
己に関わることならば、と声を掛けることも考えたが、話の妨げになってはいけない。
しばし迷った後、ようやく一歩足を踏み出したところで、
「まったく…ケントには困ったものだ…」
再び立ち止まってしまった。
(ケント……?)
確かに幼い頃、あの幼馴染みはよく徒に大人達を悩ませていた。
だが、それももう昔の話だ。
今のケントは立派な青年で、何も問題などないはず。
(…………いや、一つだけ、)
心身を鍛え、妻を娶り、村を守る。
先人達が繰り返してきたその営みを、自分達もまたこれから繰り返していくことは自然の流れというもの。
恐らくそれがヒィさまの言う『さだめ』なのだろうと、ケントも私も幼いながらにそう理解していた。
だから私の隣にはかの乙女がいて、ケントの傍には―…
「……………」
目を逸らしたのが先か、歯を食い縛ったのが先か。
それ以上足を踏み出すことは出来ず、ただ静かに踵を返したのだった。
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(摘んだのは、六日の菖蒲)
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嘘つき、ロンリー。