大泥棒 対 名探偵

王女


「私、髭面の男って嫌い。」


その一言に大きな笑い声が上がる。

笑っているのは「嫌い」だと言われた当の『髭面の男』自身で、それを責めるように肘で突いたのは傍らにいた一人の青年。


「先生…多分今の、笑うところじゃないですよ…」

「いやぁ、『パーフェクトなボディーガード』ってやつも王女サマにかかりゃあ形なしみてぇだな。」

「何を他人事みたいに…」


サクラ女王亡き後。

活発化し始めた反王族主義者達に対し、一計を案じたキース伯爵が王宮に招いたのは『用心棒』とその『一番弟子』だった。


この手の輩は往々にして気難しく自尊心が高いもの…と思っていたが、どこにでも例外というものは存在するらしい。


先のミラ王女の暴言に気分を害した様子もなく、むしろどこか愉しげに(片や呆れたように)やり取りを交わす二人の姿に思わず拍子抜けしてしまった。


だから、次の王女の発言を予期することも出来なかった。


「あぁ、もうこの際です。それ、全部剃ってしまったらどう」

「そっちの人ならいいわよ。」

「、え、」


突然の指名に青年が固まってしまったのも無理はない。

王女の我が儘に慣れているはずの我々でさえ戸惑っているのだ。


「自分…ですか…?」

「えぇ、そうよ。」


恐る恐る問い返す青年に半ば意地のように王女が答えたのは、恐らく伯爵に対する当て付けもあるのだろう。

だが当の伯爵がそれを窘めることはなく、困惑はますます周囲の者達に浸透していく。


(キース様が黙認している…ということは、日本への同行も彼でいいということか?)

(確かに時々、彼が狙撃の講義を受け持っているらしいが…)

(衛兵達の間ではなかなか好評のようだぞ。)

(しかし、それとこれとは話が別だろう。伯爵は一体、何を考えているんだ?)

(分からん。)


(まぁ、いいんじゃないか?我々護衛チームの邪魔さえしなければ別に―…)



「悪いな、王女サマ。」



不意に、飛び交う視線が一点に集中する。


「こいつはまだ半人前でな。まだまだ手元から出す訳にはいかねぇんだ。」


『一番弟子』の肩を抱き寄せながら、そう言って『用心棒』が不敵に笑う。
 
冗談めかしてはいるが、譲る気はなさそうだ。


「まぁ、どうしてもってんなら、師匠である俺も一緒に」

「結構よ。」


そして間髪入れず返された言葉に、また笑い声が上がった。




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(やはり、この手の人間はよく解らない)
(王女にも、誰にも)

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嘘つき、ロンリー。