大泥棒 対 名探偵
女中
「え、」
そう思わず声を漏らした瞬間、背中に視線が集まるのを感じた。
電話の向こうから「落ち着け」と注意を受ける。
「……はい。…はい、分かりました。……それでは、お気を付けて。…あまり飲み過ぎないで下さいね?」
そして通話を切ると同時に、不自然ではない程度に深呼吸を一つ。
ヴェスパニア鉱石とやらの採掘には成功したが、その帰りにこの国の兵士と一悶着あったらしい。
被害は車二台にヘリが一機。
特に怪我もなく、正体がバレた訳でもないので今のところはまだ逃走の準備は必要ない、とのことだが。
(…なるほど。こういう事態に備えて「あまり兵士と親しくするな」と言っていたのか。)
今更ながらその真意に気付くなんて、だから俺は未だ『先生の弟子』から抜け出せないでいるのだろう。
そう肝に銘じ、気持ちを切り替えて振り返った。
こちらに向けられるのは思った通り、好奇の眼差し。
それらに応えるように軽く肩を竦めながら元の席へと戻る。
「先生、帰りが遅いと思ったらバーで一杯やって来るそうです。」
「気紛れな殿方とお付き合いするのは大変ですね。」
「えぇ、本当に。困ったものですよ。」
「ケント様、お茶のおかわりはいかがでしょう?」
「あ、はい。ありがとうございます。頂きます。」
「その点、キース伯爵は素晴らしい方ですのよ。この間も」
『先生』の言い付けを守るなら、この場もそろそろ切り上げるべきか。
情報収集の一環で同席させてもらっていたが、さほど効果を上げておらず、特に未練もない。
以前の職場に女性がいなかったためよく分からないが、先程から様々な『殿方』の話で盛り上がるメイド達は男の俺が居てもお構いなしで、ただただ苦笑するばかりだった。
しかし「キース伯爵」と言えばー…
「王女御一行も、もうすぐご到着するそうですね。」
「え?」
「え?」
何気ない世間話のつもりで発した言葉が途端に躓いた。
最後の最後に、何かまずいことを言ってしまっただろうか、と内心焦ってしまう。
「先程、キース伯爵からそう、ご連絡をいただいたのですが…?」
「まぁ!そうなんですか?」
「キース様から、直接ご連絡を?」
楽しげな黄色い声が全て杞憂だったと教えてくれるが、何となくそこに違和感を覚えた。
「キース様だけですか?カイル様からは?何も?」
「あぁ!もう!一体何をされて」
「やはりキース様が一歩リード」
「いえ、まだ先生だって」
「大穴が」
その後、俺を置き去りに再び盛り上がりだした彼女達が一体何の話をしていたのか、残念ながら俺にはよく分からなかった。
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(女中達の、密やかな楽しみ?)
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嘘つき、ロンリー。