仮想の物語
IF〜空賊初心者
「いよいよ初仕事だな、新入り!」
「精々足を引っ張るんじゃねぇぞ。」
「あぁ、分かってるよ。」
仲間の誰かとすれ違う度に何かしらの激励を受け、ようやく実感のようなものが沸いてくる。
(いよいよ、か…)
今の俺は『空賊』で、これから行うことは歴とした犯罪だ。
そう覚悟を決めていたつもりだったが、やはりいざとなるとあまり気が進まない。
今回の標的はただの遊覧飛行船で、簡単な仕事だと口々に言われたが、
「ケント?」
そっと吐き出した溜め息に気付いたのか、前を歩いていた一人が足を止めて振り返った。
「もしかして緊張してる?」
「ん…まぁ、そんな感じだ。」
当たり障りなくそう返せば、「へぇ、ケントでも緊張するんだなぁ」なんてしみじみと言われてしまった。
それは一体どういう意味だ。
問い質そうとした瞬間、「あ、」と遮られる。
そして何か思い付いたような顔をして、勿体つけるようにそいつは一度二度咳払いを繰り返した。
「まぁ、あれな!くれぐれも怪我はしないようにな!」
「で、結局負傷者はお前一人か。」
「うぅっ…いってー…」
俺がその腕に包帯を巻く間、空いた方の手で頬を押さえながら呻くアンリ。
そこは赤く腫れていて見るからに痛々しい有り様に、思わず溜め息がこぼれた。
まず仲間の誰かが発砲したそれが被弾。
掠める程度で済んだものの、怯んだそこを好機と見なされたのか、客の一人から反撃の一発を食らった。
だが、抵抗らしい抵抗はそれが最初で最後。
その後は何事もなくすんなりと事を運ぶことが出来たのだから、本当に運が悪いとしか言いようがない。
「ケントに良いところを見せたかったのに…」
「そうか。残念だったな。」
恐らく先輩風を吹かせたかったのだろう。
軍にいた頃にも似たような輩がいたものだ、などと少し昔に思いを馳せながら手当てを終わらせた。
(…『昔』か……)
ふと気付けば、全てはもう過去のことになっている。
つい数時間前までうだうだと考えていたのが、らしくもなく緊張していたのが、嘘のように。
「ケント?」
今の俺は『空賊』で歴とした犯罪者だ、と。
「…まぁ、次を期待してるよ。」
「!俺、頑張るから!」
それもこれも、目の前で無邪気に笑う『先輩』のお陰だろうか。
なんて、つられるように俺も笑ってしまった。
気楽に行こう。
「…ということで、俺達もモノが手に入ればそれで良い訳だ。だから無駄な抵抗はしないでくれ。お互いのためにも、な。」
----------------
147000hitより。
キリリクありがとうございました!
*前次#
戻る
嘘つき、ロンリー。