紅い飛行艇乗りの物語
閑話
「あんた、『英雄ケント』の孫だろう?」
断りもなく、隣の席に腰を下ろした若い男。
どこか見覚えがあるなと思いつつ、視線を手元のグラスに戻した。
「だったらどうした。」
「あぁ、気を悪くしないでくれよ。あんたの名前、知らないんだ。」
良かったら教えてくれないか?
人好きしそうな笑みが水面に浮かび、それを一気に飲み干して口元を拭った。
横から手が伸びてきて、空になったグラスに酒が注がれる。
「ん…別に大した名じゃねぇよ。」
一口含めば思ったよりキツい。
僅かに眉を顰めてグラスをテーブルに戻した。
ふと、背後からこちらに近付いて来る足音。
「ジュニアっ!」
「…お静かに、少佐。他のお客様にご迷惑ですよ。」
こみ上げてくる笑いを噛み殺し、それを合図に腰を上げると、初めて隣の男と視線が合った。
どこか不満げな顔。
やはり、見覚えがある気がする。
「悪いな。これから小煩い上司と約束があるんだ。」
機会があればまた今度。
男の分の代金もテーブルに置き、背を向けかけて、ようやくそれに思い当たった。
「あぁ、そうだ。」
「?何だ?」
「今度は待ち伏せじゃなくて、ちゃんと追い掛けてこいよ、『狼』くん?」
「…誰だ。」
頻りに後ろを気にしながら何故か不機嫌なフェラーリンに、ジュニアは肩を竦めて苦笑を返した。
「最近噂のルーキーさ。」
「ヴィスコンティ!こんなところにいたのか!」
「ん…あぁ。」
「今度の用心棒の件だが…おい?どうした?」
「いや…敵わないな、と思ってさ。」
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結局、名前を聞きそびれてしまった。
そして飲み残された酒を呷る。
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嘘つき、ロンリー。