紅い飛行艇乗りの物語
閑話
「まだお伽話を信じているのか。」
久々に祖父母の家を訪ねると、祖父は呆れたようにそう第一声を発した。
とりあえず俺は苦笑で返す。
空軍入隊を真っ向から反対されたことはないが、あまり良い顔されたことがないのも事実だ。
父曰く、『空軍』ではなく『パイロット』というのが気に入らないらしいのだが。
『親父の話、聞いたことあるだろう?あれは「地に足を着けろ」って教訓なんだよ。比喩じゃなく実際に、ね。』
「いつまでもフラフラと飛んでないで、早く嫁をもらえ。曾孫の顔を見せろ。」
「…まぁ、その内」
「ふふっ、そうですわねぇ。」
言われ慣れた小言を常套句で受け流そうとした瞬間、珍しくそこへ祖母が口を挟んできた。
根っからの軍人気質の祖父と違い、上流階級出の祖母は基本おっとりとしていて、何かをこうして急かしたことなんて今までなかった。
「フェラーリン少佐とはその後どうなのかしら?」
「…どうしてそこでその名前が出てくるんです?」
そして正直、俺は何を考えているか分からない分、祖父よりも祖母の方が苦手だ。
訝しげに祖母の顔を見ていると、その隣で同じように顔を顰めている祖父の姿が目に入った。
「あなたもこの人も、同性の方に懸想されやすい質ですからねぇ。」
「…おい。」
「あら。アンリさんとのこと、私が疑わなかったと思いまして?」
祖父はますます苦虫を噛み潰したように表情を歪める。
祖母は愉しげに笑うばかりだ。
「あれは友人だと何度言えば分かる。気持ち悪いことを言うな。」
「いいじゃないですか。私は気にしていませんわよ。」
最終的に貴方は私を選んで下さったのですから。
そう微笑む祖母に、祖父は言葉に詰まった。
乱暴にそっぽを向いた横顔が心なしか少し赤い。
(結局は痴話喧嘩か…)
いつまでも仲がよろしいことで、と苦笑しつつ、俺は腰を上げた。
馬に蹴られるつもりはない。
だから静かに退散しようとした。のだが、
「そういうことですから、貴方もフェラーリン少佐とのことを隠さなくてもいいんですからね。」
「………」
矛先は再びこちらへと向いた。
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最強は『英雄』の嫁。
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嘘つき、ロンリー。