紅い飛行艇乗りの物語

おわりかはじまり


『英雄の孫』と呼ばれることが嫌ではなかった、と言えば嘘になる。


比較され、期待され、失望され、そして時には同情されることもあった。


「偉大な『英雄』を祖父に持つと苦労するな。」


苦笑混じりにそう言われる度、歯噛みした。


(お前なんかに何が分かる…)


勘違いする奴も多かった。

俺が空軍へ入隊したのは祖父の命令で、頑なに本名で呼ばれるのを拒むのはそれに対する反発だ、と。


「ジュニア、」


実際は全て真逆だった。

空軍入隊は俺自身の希望であり、本名を拒んだのは祖父に対する敬意だ。



『お前の好きにすればいい。』



それらを知るのは、ごく一部の親しい人間だけ。


「疲れているんじゃないか?少し休んだら、」

「俺は大丈夫だ。それよりばあ様は…?」

「…ミセスの方にはジーナが付き添っている。心配するな。」

「…そうか…」


差し出されたハンカチは水で濡れていて、目元に当てると心地好かった。

そっと息を吐く。


「…やはり、しばらく休んでおけ。お前まで倒れたらどうする。」

「心配しすぎだって。それにまだ、参列客へ挨拶が済んでねぇんだ。」

「ジュニア。」


諌めるように呼ばれた名を、肩を竦めてやり過ごす。

そして短く礼を述べるとハンカチを返した。


「夜にはマルコも来るってよ。久々に四人で酒でも飲もう。」

「っ、あぁ…」


複雑そうな表情のフェラーリンは相変わらず過保護だ。

その様子に苦笑し、背を向けた瞬間



「………ケント。」



ぽつり、とこぼれ落ちたその名に一瞬足を止めた。


あれほど焦がれた名が、今は重い。





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『英雄』なんてどうでもいい。

貴方が死んだ、ただそれだけが事実。


End and Start

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嘘つき、ロンリー。