紅い飛行艇乗りの物語

むかしばなしU


君は呼ぶ









「よ、フェラーリン。待たせたか?」

「…いや…」

「マルコの奴、少し遅れるってよ。」

「…そうか…」

「先、始めてようぜ?」


主役がいねぇけど。


そう苦笑すると、男はウェイターを捕まえて酒の注文を始める。


男に気付かれぬよう、俺はそっと溜息をこぼした。

少しの間だけとはいえ、この男と二人で酒を酌み交わすなんて考えたくもなかった。


「フェラーリン、お前は?」

「…同じものを。」

「だってよ。んじゃ、よろしく。」

「了解、ジュニア。」


男と顔見知りなのか、いやに気安い受け答えをし、背を向けたウェイターを見送る。

そしてふと男と向き直った。


「お前、こんなところでもジュニアって呼ばれているのか?」

「ん、おぉ。」


てっきりパイロット仲間の間だけかと思っていたが、徹底していると言うか何と言うか。

呆れを通り越して、いっそ感心してしまった。

それは男に対して初めて抱いた肯定的な感情だった。


「どうしてジュニアなんだ?孫ならサードだろう?」


だからかもしれない。

つい口が滑らかになり、聞くつもりのないことを聞いてしまったのは。


俺の質問に男は一瞬キョトンとすると、「初めて聞かれた」と少し嬉しそうに笑う。


「俺の親父、知ってるか?」

「お前の?」


きっと目の前の男以上に重圧を受けた男。

そういえば『英雄』や『孫』ばかりが有名で、その息子など一度も噂に上ったことがなかったなと思う。


顔どころか名前さえ。


軍属でなかったせいもあるだろうが、その生死さえ分からないことに少しだけ寒気がした。


「俺はさ、フェラーリン。確かにじい様の孫だが、親父の息子でもあるんだ。」


だから『ジュニア』。

それは何でもない、簡単な答えだった。


「勿論じい様のことは尊敬してるさ…言っちゃ悪いが親父以上にな。」


そう苦笑しながら酒を煽る姿に、俺は初めてケントを知った気がした。





--------------
君を呼ぶ

*前次#

戻る

嘘つき、ロンリー。