紅い飛行艇乗りの物語
閑話
それはまるで天空の城を目指すようなもの
『アドリア海のエース』に、『英雄の孫』。
そんな組み合わせが目立たない訳がなく、その二人は常に周囲の視線を集めていた。
(当人らが気付いているかどうかはさておき)
そんな中、たかが士官候補生である自分が近付くにはかなり勇気が必要だった。
だから片割れが離れ、自分の手の中にあった大義名分に「今しかない!」と思った。
「あ、あの…」
「あん?」
気怠げに振り返った『英雄の孫』と一瞬目が合い、思わず逸らしたくなった。
「こ、これ、落としませんでしたか…?」
そう差し出したのは真っ白な無地のハンカチ。
もしかしたら名前の刺繍ぐらいあったかもしれないが、生憎確認はしていない。
というよりも確認する余裕がなかった。
「え?あー、と…」
相手がぱたぱたとポケットを探るのを待つ間、背中に突き刺さる視線が痛かった。
一人になれば半減するんじゃないかと期待していたが、どうやら外れたようだ。
「わりぃ、俺んだわ。」
ありがと、とそれを受け取る瞬間、指と指が微かに触れ合った。
カッと顔が熱くなる。
だがそんなこちらの様子にも気付かず、『英雄の孫』はさらなる追い撃ちを掛けてくれた。
「士官生か?頑張れよ。」
ニカッと。
至近距離で、しかも真正面から向けられた笑みに。
一発KOされた。
その瞬間、背中に突き刺さる殺意すら気にならなくなっていた。
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あなたは覚えていないでしょうけど
それが始まりでした
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嘘つき、ロンリー。