神々の集う湯屋の物語
閑話
薄暗い廊下を行く、小さな背中。
進めば進むほど闇に近付くというのに、その後ろ姿には怯えがない。
思わず、くつくつと笑いを噛み殺した。
「坊主、迷子かァ?」
揶揄を含んでそう声を掛ければ、一拍の間。
そして、
「…あァ?」
振り向きざまに交わった目は思いの外、鋭く冷たい色をしていた。
一瞬蛟の類かとも思ったが小綺麗な身形だ、神格もある。
ますます笑えた。
「その先にゃア、怖ァい神さんしかいねぇぜ?」
てめぇなんざァ、一刀両断だ。
どんな反応が返っててくるのかが楽しみで、そう脅しを重ねてみた。
これであっさり揺らぐようなら本当に斬ってしまおうか、とも。
すると予想通りと言うか期待通りと言うか、とりあえず見た目通りの淡々とした声が返ってくる。
「…ケント、という男を探している。」
「あァ?」
「湯婆婆に、『ここ』のことはその者に聞けと言われた。知らないか?」
こちらの装いを上から下まで値踏みして、少々躊躇いながらの問い掛け。
あまり期待はしていないようだ。
ならば返事は決まっている。
「さぁなァ…」
興味なさげに後ろ頭を掻けば、「そうか」とこれまた興味なさげな相槌。
「まァ、他に困ったことがあったらいつでも言いなァ?助けてやんよ、坊主。」
そう言葉を付け足せば、相手は世辞と取ったのか、軽く頭を下げただけで名前も聞き返さず行ってしまった。
その後ろ姿を見送って、ケントはまたしばらく『油屋』を離れようと、そう決めるのだった。
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助ける、と言ったのは本心だった。
そう言った瞬間だけは。
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嘘つき、ロンリー。