神々の集う湯屋の物語
閑話
「ばっかじゃねぇの。」
唐突に吐き捨てられた言葉。
顔を見ずとも眉を顰めていることが容易に想像出来るような、そんな声色だった。
その暴言に酌をしていた女の手が強張り、ケントは笑う。
「ひでぇ口振りだなァ?」
「も、申し訳ありませんっ!」
言った当人の代わりに女は頭を下げ、件の娘を叱り飛ばした。
「ケント様に向かってなんて口の利き方をするんだい…っ!」
狐顔の、下働きの娘だ。
不満げにへの字に閉じた口はまだ何か言いたげに見える。
それを見兼ねた訳ではないが、「まァ、いい。言ってみろ」とケントが先を促した。
「酒の肴ぐらいにゃア、なんだろうよ。」
言葉が悪かったのか、娘がケントを睨みつける。
「…何でここにいんだよ…」
「あァ?」
「自由なくせに…どこにだって行けるくせにっ!」
「これ、リン…っ!」
客にしては長すぎる逗留、従業者としては奔放すぎる振る舞い。
それらが娘には恨めしく妬ましく疎ましく、そして羨ましかった。
もしかしたらここ『油屋』にいる、誰もが思うことかもしれない。
ケントが一瞬、喉を鳴らす。
まるで自嘲するかのような、小さな小さな笑いだった。
「世の中にゃア、自由すぎる不自由ってのもあんだよ。」
「……何だ、それ…」
困惑する娘を横目に、ケントは残り少ない酒を手酌で呑むのだった。
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どこにも居られないから、どこかに行くしかない。
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嘘つき、ロンリー。