神々の集う湯屋の物語
閑話
不意にか細い悲鳴が聞こえ、釜爺は作業の手を止め、振り向いた。
すると、こちらに背を向けて座る黒い浴衣の男が一人。
よく見ればその足元でススワタリ達が右往左往している。
「…暇そうだなぁ、ケント。」
「あァ?」
ススワタリ達に何やらちょっかいを出しているらしいケントは、遊びに夢中なのか肯定のような否定のような返事を返す。
それに呆れた釜爺が長い腕を伸ばし、ケントの襟首を掴んで引っ張った。
「ほれ、暇ならこっち来て手伝え。」
「俺ァ、客だぜ?」
「客がこんなところうろちょろすんじゃねぇよ。とっとと風呂浸かって部屋戻りな。」
「さっき浸かってきたばっかだよ。いやァ、いい湯だった!」
取って付けた様な感想を言いながらケラケラ笑うケントの両手はすっかり煤まみれだ。
たとえその言葉が嘘でも本当でも、後で一度湯に浸かる必要があるだろう。
とりあえず「これでも煎じとけ」と薬草やら道具やらを押し付ければ、ケントは「へいへい」とあっさり引き受けた。
ふんふんと鼻歌を歌いながら作業に取り掛かる手付きはやけに手慣れている。
「そういや爺さん、新入りが入ったんだって?」
「しゃべってねぇで手ぇ動かせ、手ぇ。」
「何でもばばあに弟子入りしたいとか。物好きな奴もいたもんだなァ!」
拳骨の一つも落としてやろうとしたが、その前に薬湯を催促する札が落ちてきてそれは叶わなかった。
背後でカラカラ笑うケントの声が少しカンに障る。
「で、一体どんな奴だ?」
「……おめぇ、それが目的か。」
釜爺の言葉に今度は肯定も否定もせず、ケントはただにんまりと笑ってみせるのだった。
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他に娯楽がないんだ、大目に見ろよ。
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嘘つき、ロンリー。