神々の集う湯屋の物語
第七話
答えは二つに一つ
「…行かせて良かったのか?」
「あァ?」
先程までハクが横たわっていた蒲団を片しながら釜爺が問う。
答えるケントはどこか上の空で、そちらを一瞥することすらしなかった。
「本人が迎えに行きてぇって言ったんだ。いいんじゃねぇの?」
「一緒に行かなくて良かったのか?」
ケントが小さく笑う。
「んな野暮じゃあねぇよ。」
いつもの苛烈さはなく、仄かに和らげな表情。
残念なことにそれを見たのは足元のススワタリ達だけだった。
「そういやぁ、千がなぁ…」
「あァ?」
「カオナシがお前と同じ黒だったから、悪いものだと思わなかったって言ってたぞ。」
「ふはっ!そりゃあいい!」
油屋を訪れる客に黒を纏う者はほとんどいない。
だからこそ異色に映るケントの姿を、齢十になる娘が悪いものと感じなかったという。
「人間ってのぁ、可愛いもんだなァ!」
打って変わってげらげらと笑うケント。
そこでようやく釜爺が振り向いた。
少し意地悪げに口元を歪め、色眼鏡の奥は愉しげに細められ、
「わしも、あんなに取り乱すお前を初めて見たぞ。」
『ハクっ!』
「…血を見ると高ぶる質でなァ。」
結局、最後までケントが釜爺の方を見ることはなかった。
--------------
嘘は一つに二つ
*前次#
戻る
嘘つき、ロンリー。