神々の集う湯屋の物語
お忘れ物のないように
なくしてからでは手遅れです
「坊ちゃまぁ」
柔らかい女の声にハクはふと足を止めた。
先程から聞こえる、きゃあきゃあと楽しげな女達の声。
時折混じるのは童の笑い声だ。
(庭の方か…)
何気なく声のする方へ向かえば、予想通りの光景があった。
蹴鞠に興じる数人の女衆と下働きの娘、そして巨体な童が一人。
「あっ…」
不意に蹴り損ねたらしい色煌びやかな鞠が飛んできた。
それを受け止めれば、その場はばつが悪そうに静まり返る。
「楽しむのはいいが、周りもよく見ておいた方がいい。」
「も、申し訳ありません!ハク様!」
慌てて毬を取りに来た娘にそれを渡し、辺りを見渡した。
「誰か、ケントを知らぬか?」
先程からその姿を探しているが見つからない。
そう続ければ、女達は困ったように互いの顔を見合わせる。
坊は一人、不思議そうに首を傾げていた。
「……ハク。お前、知らねぇのか?」
諦めて次へ向かおうとすれば、一歩前へ進み出たリンが呼び止める。
「ケントの野郎ならもう、出て行っちまったぞ。」
珍しくばたばたと走り去る後ろ姿を見送って、誰かが小さく笑った。
---------------
どうぞ取り返しのつかなくなる前に
*前次#
戻る
嘘つき、ロンリー。