河神様とある人柱の話
挿話
川に来る度、青年は桶を抱えていた。
そしてその度に中身を川へ流していく。
「御神酒だ。…安酒だけどな。」
その作業の様子を見守っていた少年が中身を問えば、苦笑しながらそう答えた。
すると少年は少し複雑そうに顔を歪ませる。
「それは…川を鎮めるためか?」
「まさか。それなら今頃、村のじいさま達が色々と考えているだろうよ。」
最後の一滴まで流し終え、青年は桶を足元に置いた。
「これは俺個人の礼みたいなものさ。」
「礼?」
「妹がな、前にここで溺れたんだが…」
両親を随分前に流行り病で亡くし、二人っきりの兄妹。
他に身寄りもいないと青年は言う。
そして「俺はあいつを失うのが一番怖い」と。
「だから、妹が川に落ちたと知った時は血の気が引いたよ。」
当時を思い出したのか、小さく笑いながらも軽く身震いしてみせる青年。
だが結局妹は無事だった。
まるで見えない力に運ばれるように、特に怪我もなく浅瀬へと流されていた。
「村のみんなは口を揃えて『運が良かった』と言うが、俺は違うと思っているんだ。」
きっとあれは神様だ。
そう言って、不意に青年は少年へと向き直る。
あまりに突然のことで、少年は目を逸らし損なってしまった。
「そんな優しい神様がいるんだ。ここもすぐに元通りになるだろうよ。」
逸らすことが出来なかった。
--------------
ありがとう。
(だが流暢に話していた青年にも一つだけ、黙していたことがある)
(白い龍を見た気がする、と)
*前次#
戻る
嘘つき、ロンリー。