イチャコラ祭

乙女の兄


「勝負だ、アシタカぁっ!」


今日も今日とてアシタカに挑むケント。

本当によくもまぁ飽きぬものだと、呆れた郷の者達の方が先に飽きてしまい、周囲にはもう誰もいない。


それまで心配そうにその動向を見守ってきた妹のカヤですら最近では見向きもせず、今や友人らと山へ遊びに行く始末だ。


ただアシタカだけが一人、嫌な顔一つせずそれに付き合っているのだが…


「…そなたは何故、それほどまでに勝負にこだわるのだ?」

「あ?」


ここに来て初めて、二つ返事以外の答えが返ってきたことにケントは戸惑った。

というか、それは今更の話ではないか?


「何故って、そりゃあ…」

「折角二人っきりなのだ。もっと何か、別のことをやりたいとは思わないか。」

「!」


不意に頬に添えられた手。

鼻先が触れ合いそうになるほど近く、寄せられた顔。


アシタカの、曇りなき眼が鏡のように己の姿を映すのがはっきりと見えた。


「っ、ばっ!?べ、別のことって何だっ!?」


慌てて距離を取るケントに対し、アシタカはひどく残念そうだ。


実はこの二人、ひょんなことから恋仲という関係になってもう随分と経つ。

だというのに、それらしいことを何一つせず以前のままなので、周囲からそう見られることがない。


知っているのはカヤぐらいのものだ。


そしてアシタカが焦れるのも、無理のない話だった。


「…とにかく。何でもいいから一つ、お前に勝ちたいんだよ。」


気を取り直してそう答えるケントもどこかばつが悪く、恐らくアシタカの気持ちには気付いているのだろう。

だが、どうしても譲れない理由があった。


「…でないと、お前に相応しくないだろ…」


ぼそりと付け足された言葉は、アシタカの耳にしっかり届いた。


何だ、そんなことかと笑うのは簡単だが、ケントにとっては重大な問題のようだ。

笑いを必死に噛み殺しながら、「ならば、」とアシタカは内緒話をするかのように声を潜めた。


「実は一つ、私にはどうしてもそなたに勝てないものがあるのだ。」

「何っ!?」


それを早く言え!と身を乗り出したケントは、己の腰に回された腕に気付かない。


そしてアシタカはケントの耳に唇を寄せ、答える。


「先に惚れた方が負け、と言うだろう?」







もう少しだけ騙されていたいです

(でもやっぱり、負けは負け)

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嘘つき、ロンリー。