馬蹴祭
河の神と武神
ほのかな恋心を抱く娘の話。
彼の人は喧騒を好む。
元来そういう性質のものだと、誰もが皆、知っていた。
そう、思っていた。
周囲に姦しい女衆を侍らせ、囃子を冷やかし、他の客を巻き込んでは、こぞって自身の機嫌を取ろうとする兄役らを笑い飛ばす武神。
だから、初めてその姿を目にした瞬間、ひどく戸惑ってしまったことを今でもよく覚えている。
(……そろそろ、かしら?)
宴の準備に忙しなく動き回る周囲に目をやり、こっそりとその場を後にする。
盆の上には白湯を淹れた湯飲みに、おしぼりを一つ。
足を進めれば進めるほど喧騒から遠ざかり、自分の鼓動の音がより大きくはっきりと聴こえるようだった。
まるで初めての逢瀬に胸をときめかせる生娘のようで、思わず苦笑してしまう。
(逢瀬なんて…そんな……)
湯舟から宴の場へと向かう途中の、ほんの僅かな時間。
湯冷ましのためだろうか、庭に面した渡り廊下で一人佇む背中は常とは違う雰囲気を漂わせていた。
言葉を交わすこともなければ、視線が交わることさえない。
だけど、その姿を知る者は自分の他に誰もいない。
それだけで、充分だった。
「ぁ、……」
そして角を曲がった瞬間、いつものようにケント様がそこに立っているのを認めた私は、つい口元が緩むのを堪えきれずに、
「ケント。」
もう一つの影に気付き、足を止めた。
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(嗚呼、嗚呼)
(彼の人の待ち人は、私ではないのだ)
(そんなこと、疾うに知っていたというのに)
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嘘つき、ロンリー。