若狭と腐れ縁02
※真一郎がタイムリープした後の話。
「おい、玄兎。」
名前を呼ばれると同時に、ぽすっと軽い何かで頭を叩かれる感触。
その瞬間、我に帰った俺は反射的に振り返って思わず息を呑んだ。
「、は…?」
「何ボサッとしてんだよ?」
数日前に別れたばかりの恋人が、そう言って呆れたようにこちらを見下ろす姿に混乱した。
その手には丸めたカレンダーが握られ、どうやらそれが先程俺を叩いた凶器らしい。
(……いや、待て……「別れた」って何だ…?)
『黒龍』解散後、若狭と正式に交際を始めて数年。
別れるどころか今度同棲することになり、今日はその引っ越し準備のために二人で俺の部屋を片付けていたはずだ。
恐らくベンケイも、もうすぐ荷物を運び出す手伝いにやって来る。
それなのに何故か、身に覚えのない「記憶」が脳裏を過る。
『……分かった。』
別れを告げた俺に見向きもせず、たった一言素っ気なく返したのは間違いなく若狭だ。
ただ俺の知る姿とは少し違い、服から厳つい刺青が覗いていた。
首から常に下げているはずのチェーンもなかった、ような気がする。
(夢か?それとも最近そんなドラマか何かを観たっけか…?)
だが、やけにリアルなその光景に、冷たい何かを飲み込んだような嫌な感覚が胸に落ちた。
「懐かしいな、それ。」
「え、」
傍らに座った若狭が俺の手元を覗き込み、ふと小さく笑う。
つられて見ると俺はそこそこ厚みのある写真の束を手に持っていて、そう言えばベッドの下から出てきた箱の中身を確認しようと開けたところだったな、なんて思い出した。
写っているのは『黒龍』の特攻服を着た人間がほとんどで、若狭の言う通り、その懐かしさから俺は手を止めてしまったのだろう。
そう納得したらしい若狭が「整理すんなら帰ってからにしろよ」と腰を上げ、それに頷き返しながら写真を箱に戻そうとした俺は、まだ中に数枚残っていることに気が付いた。
恐らく『煌道連合』時代の、若狭と二人肩を組んで撮ったもの。
自撮りの割によく撮れていて、しばらく部屋の壁に貼り付けていたが『黒龍』結成と同時に取り外し、後からそれを知った若狭をひどく不機嫌にさせた覚えがある。
若狭の方が、先に『黒龍』を選んだ癖に。
(…俺は、今何を考えて……?)
仲間内の誰よりも長い付き合いの中、どんなに「甘い」と言われようとも俺はいつだって若狭に黙ってついてきた。
若狭の選択を信じてきたし、これからもそうするつもりだ。
それで幸せだった、はずだった。
(なのに、何でこんな…黒い、くろい、クロイ…)
不意に落としたままの視界の中で、首から下げたチェーンがちらりと光る。
若狭と揃いの指輪。
「記憶」の中の俺が箱から取り出すことのないまま、若狭にも返し忘れてしまった、それ。
思わず、吐きそうになった。
「…なぁ、若狭。」
「ん。」
そして合鍵を返した数日後。
真一郎が殺された、と聞かされた。
泣き笑え、と誰かが云った
(その瞬間、そっと安堵の息を吐いた俺はなんて酷い奴なんだろう)
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こっそりT卍R祭より。
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嘘つき、ロンリー。