せんせいのわんこ
わんこのしつけ2
お座り、お手、おかわり、など。
犬に仕込む芸の基本とも言えるそれらは、比較的簡単に覚えさせることが出来るだろう。
だが、中には簡単そうに見えて難しいものも、ある。
それは本能に逆らう、一種の試練のようなもの。
「『待て』。」
その一言で、馬鹿犬を診察室の片隅に縛り付けたのは数時間前。
とは言っても別に食事を禁止している訳ではなく、本当にただ部屋の隅に置いたパイプ椅子に座らせているだけだ。
年若い婦女子の出入りもある、ここ医院内に不純物を持ち込んだ罰としては少し軽いようにも思えるかもしれない。
だが、玄兎にはこれで充分だった。
「っ、テオせんせ」
「『待て』。」
苦手な女性の患者が来ても、『待て』。
それがもしも娼婦で、面白がって触れようと手を伸ばしてきても、『待て』。
途中、所用で訪れた便利屋二人が揶揄しても、挑発してきても、『待て』。
「へぇ?今日のポチくんは随分とイイコだねぇ。」
「テメッ…誰のせいだとっ」
「『待て』。」
「くっ…!」
「おぉ、エライエライ。よく出来ました。」
玄兎が抵抗しないのをいいことに、笑いながらその髪を思う存分ぐしゃぐしゃと掻き乱すウォリック。
隣で呆れたようにニコラスが鼻を鳴らすが、やはりその口元は少し笑っている。
思わず溜め息を吐いた。
「…用が済んだらさっさと帰れ。」
そして二人を追い払い、改めて馬鹿犬へと向き直る。
頭はボサボサ、頬には口紅を付けた玄兎はほとんど泣きそうになりながらこちらを見上げていた。
今日一日、色んな人間の玩具にされて充分懲りただろう。
仕方なく最後の『待て』を溜め息混じりに言い放ち、その乱れた髪を直してやろうと手を伸ばした。
まだだよ、darling
(そして『よし』と呟いた瞬間、)
(はち切れんばかりに振られる尻尾を見た、ような気がした)
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194000hitより。
キリリクありがとうございました!
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嘘つき、ロンリー。