せんせいのわんこ

わんこのじゃれあい2


ニコラスは一瞬、自分が今『何』と対峙しているのか、忘れかけていた。


落ちたダガーナイフを遠くへ蹴り飛ばし、それを反射的に追おうとした両手首を掴んで近くの壁に押し付ける。

少し勢いが付きすぎたのか、一、二度咳き込んでみせた玄兎。


勝負はあった。

後はいつも通り、玄兎がこれまで以上に酷い罵詈雑言を吐き捨てるのを鼻で笑い、からかい倒して解放するだけ。


そう愉しげに口元を歪ませたニコラスは、そのやたらと爪を立てるのが好きな相手が『犬』であることを忘れていた。


だから、油断した。


不意に玄兎がグッと首を伸ばしてきたのを悪あがきの頭突きぐらいにしか思わず、少し首を捻るだけでそれを躱そうとする。


そしてその晒されていた首筋に向かって口が大きく開かれたのを見た瞬間、ようやくその意図に気付くも一足遅い。


「っ…!」


思わず舌打ちする。


肉に食い込む歯は精彩さに欠け、勿論ナイフ程の切れ味はなかった。

だが、じわじわと沈んでいく痛みはそれより質が悪いかもしれない。

本来獣に噛み付かれた場合には決して身を引いてはいけないものだが、ニコラスは構わず力任せにそれを引き剥がした。


同時に距離を置く。


その瞬間玄兎が何か言ったものの、それを読む前にペッと唾を吐き捨てたせいでよく分からなかった。


唾液に混じる血。

玄兎の口の端も少し切れているようだ。


滲む血を舐めとると、玄兎はまた口を開いた。





足りないよ、honey

(『犬』は噛むもの、だろ?)


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悪男強化より。
リクエストありがとうございました!


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嘘つき、ロンリー。